第7話 「守矢神社とっても素敵なところ!(自称) ②」
月見と射命丸文は、かつて月見が幻想郷に住んでいた頃からの旧知であるが、その関係はお世辞にもよいとはいえない。むしろ悪い。互いを憎み合う犬猿の仲ではないにせよ、月見は文から大層嫌われているのであった。
月見が嫌われることになった理由は、かつて幻想郷で生活していた頃の、とある出来事がきっかけになっているのだけれど――。
「……まあ、それは射命丸個人にも関わることだし、私の一存では話せないかな」
「はあ、そうなんですか……?」
どうして嫌われてるんですか? ――その早苗の追究を、月見はやんわりと断る。文個人のプライベートに関わるのは事実だし、月見としても、なるべく思い出したくない出来事なのだ。
早苗はしばし疑問符を浮かべたままだったが、やがて詮なしと判断したのか、視線の先を“彼女”へと変えた。部屋の隅。早苗が持ってきた枕に頭を埋めて、文が寝かされている。
「それで、どうしましょう。文さん……」
「どうするもなにもねえ……」
諏訪子の弾幕によって見事に気絶した彼女は、未だ目を覚ます様子がない。なので、起きるまで待つしかないのが大前提なのだけれど。
では文が目を覚ました時、月見はどうするべきなのだろうか。正直、また一悶着起こって騒がしくなってしまうのは必至だと思えた。
ならばいっそのこと、
「射命丸が目を覚ます前に、帰ってしまった方がいいかもな」
「そ、そこまでするんですか?」
早苗が目を丸くして驚きの声を上げた。
月見も、その行動の問題性は充分に理解している。まるで会うのが嫌だから逃げ帰ったように取れるし、文への印象も最悪だろう。
なれどもそんなことをするまでもなく、月見の文への印象は既に最悪なのである。
「しかし、目を覚ましたらまた……ねえ」
「そ、そこまで嫌われてるなんて」
早苗の瞳は、驚愕のあまりに震えているようにすら見えた。
「文さん、誰にでも社交的で明るいのに……」
「……」
月見は今なお眠る文を見遣った。
確かに彼女がこの守矢神社にやって来た時、早苗を呼ぶ声はとても気さくで明るく、社交性であふれていた。しかしながら、月見にとってはそれこそが意外なのだ。
月見がかつて幻想郷で生活していた頃は、文はそれこそ絵に描いたような天狗――仲間意識が強く、仲間以外には排他的――であった。そんな文が人間と親しく交流している姿など、月見には俄に想像できない。
月見が外の世界を跋渉していた500年の間に、幻想郷の住人たちもまた変わっているということなのだろう。紫や操は、あいかわらずだったけれど。
「う、ううん……」
と、そうこう考えている内に、文が意識を取り戻したらしい。仰向けの状態から寝返りを打って体をこちら側に倒し、そしてやにわに開かれたその瞳と、はたと目線が合う。
「……ッ!」
文は、すぐに跳ね起きた。一瞬で視線を周囲に巡らせ状況を把握すると、こちらを鋭く睨めつけて刃のごとき警戒を露わにする。腰に伸ばされた手はすぐさま紅葉扇を抜けるよう、既にその柄へと添えられていた。
幸いここが人の家故に思い留まったようだが、人目がない場所だったらそのまま斬りかかられていたのだろうか。やれやれ、と月見は内心で低く苦笑する。
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