ハーメルン
Fallout:SAR
出発前

「ん、ありがと」

 いつの間にかセーラー服に着替えていたらしいミサキが洗顔したり髪を整えている間に、小さなジェネレータを台所の中央にあるテーブルの上に出した。

 バスローブは洗濯をしてから返すと言っていたので、ピップボーイに入れたらしい。少し残念だなとは思うが、俺は変態ではないのでまあいいだろう。

「わあ、そんな大きい鉄の塊もピップボーイに入っちゃうんだ?」
「言っただろ。バグか仕様かわからんが俺のピップボーイはって。試しにこれ、収納してみな」
「わかった。よっ。はあっ! ええーいっ! ……ダメだ、入らない」
「やっぱりか。フォールアウト4の主人公の特徴はこのクラフトだろうからな」
「なら運び屋の特徴は?」
「そうだなあ。サイボーグ化して、殺人兵器になるとか」
「うええっ。そんなのなりたくないよー。……ねえ、アキラ」
「ん?」

 身だしなみを整えたミサキが、自分の体を抱き締めるようにして眉を寄せている。

 まるで、泣き出す前の子供のようだ。

 そう思った途端ミサキを抱き締めようと体が動きかけたが、どうにか自制して煙草を咥える事に成功した。

「いきなりゲームの主人公と同じピップボーイ渡されてさ、コンパニオン? ってのと一緒にこんなバケモノだらけの世界に来た。その理由くらい、知りたいよね」
「まあな。しかも俺はピップボーイのインベントリが容量無視で、どこでもクラフトが出来るときてる。それぞれのキャラクターごとの特徴づけをされてるとしか思えねえな」
「101のアイツ、だっけ。その役の人もこっち来てるのかな」
「わからん。でもまあ何より、フォールアウトシリーズ未経験のミサキをこの世界に来た翌日に発見できて良かった」
「……ありがと。はぁ、考えても仕方ないか」
「だな」
「でもあたし達がこの世界に来た事に理由があるのなら、そうした存在がこの世界のどこかにいるなら」
「ああ。ぜってーにぶっ殺す」
「物騒ねえ。半殺しくらいにしといてあげなさいよ」

 しばらく笑い合い、ワークショップ・メニューでジェネレータから電線を伸ばしてコンロに伸ばす。
 その電線をハイライトする光がコンロの穴すらない部分で接続不可の赤から白に変わったので選択ボタンを押すイメージを思い浮かべると、何もない部分に電線が繋がった。

「うわ、なにそれ」
「錬金術師なんて揶揄されてた、フォールアウト4の主人公の得意技だな。クラフトってんだよ」
「呆れた。もしかして、そのドコドコうるさい機械に繋いだからコンロが使えるの?」
「それを試すんだよ。大丈夫だとは思うが、少し離れてろ」
「わ、わかった」

 緊張した表情のミサキに見守られ、コンロのスイッチを操作する。

 見れば台所の入口からドッグミートとED-Eも、なんだなんだとでも言うように俺を見ているようだ。

 コンロの電熱器が、徐々に赤くなってゆく。
 咥えて火を点けずにいた煙草の先を押し当てて息を吸い込んでから顔を上げると、嬉しそうなミサキがヤカンを持ち上げて流し台に向かった。

 タバコに火を点けられるならお湯も沸かせる、そんな判断だろう。

「水、まだあるか?」
「うん。ねえ、せっかくならさ」
「わかってるよ。インスタントコーヒーはあるかわからんが、日本の一般家庭ならお茶っ葉と急須くれえはあるだろ。探しとくから、このマグカップも洗っといてくれ」

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