第三話「エドワード・ヴェニングス」
エドワード・ヴェニングスはヴェニングス家の四男として、この世に生を受けた。
物心ついた時、既に母親の姿は無く、乳母に手習いなどを教わりながら育つ。
十人を超える兄弟は全て敵だった。
ヴェニングス家の当主、アラン・ヴェニングスは好色家として有名で、兄弟姉妹全員の母親が違うという恐ろしく複雑な関係を家庭内で築いた。
その癖、家庭を顧みず、権力と金集めに執念を燃やす男だった。
生まれた時から愛憎渦巻く修羅場の中で育った彼はドラコと出会った時、既に完全な人間不信に陥っていた。
母親は父に愛想を尽かして出て行き、育ててくれた乳母は弟の母親になった途端彼を突き放し、兄弟姉妹は互いを憎み合っているのだから無理も無い。
エドワードがドラコ・マルフォイと出会ったのは1987年6月5日の事。ドラコが七歳になった日だった。
初めて、父親が外へ連れ出してくれた。その事が嬉しくて、エドワードは生まれて初めて笑顔を浮かべた日でもあった。
アランはドラコの父、ルシウスの前で跪き、エドワードを差し出した。
『いいか、これからお前はドラコ・マルフォイに仕えるのだ。決して、彼の不興を買ってはならない。もし、彼に死ねと命じられたら、お前は死ななければならない』
ルシウス・マルフォイに謁見する直前、アランは息子にそう言って聞かせた。
媚を売り続けろ。ドラコ・マルフォイの関心を引け。いずれ、お前の妹を彼の下へ嫁がせ、マルフォイ家の血を我が血族へ取り入れる為に全てを捧げろ。
お前の人生の価値はそれだけだ。
それが最初で最後の父親との会話だった。要するに奴隷として売られたのだ。
アランはルシウスが闇の魔術に耽溺している事を知っていた。そして、その実験台に使っても構わないとルシウスに許可を出した。
まだ誕生日を迎えていない、六歳の幼子が理解してしまった。
誰からも愛されていない。誰からも必要とされていない。ただ、道具として消費される日を待つだけの存在。
それが自分なのだと悟った彼の心は壊れる寸前まで追い詰められていた。
「なら、僕に全てをくれ」
ドラコ・マルフォイは彼の望んだ言葉を望むだけ与えた。
必要として欲しい。愛して欲しい。道具としてでもいいから……、大切にして欲しい。
そんな彼の切実な願いをドラコは聞き入れた。
本来、ルシウスはエドワードをドラコに近づける気が無かった。
アラン・ヴェニングスが如何に下劣な人間かを彼は理解していたからだ。
物語中、息子がマグル生まれの女に負けたと聞いた時、彼はマグル生まれを貶めるのではなく、そんな女に負けた自らを恥じよと息子を叱った。
純血主義であり、権力を愛し、闇の帝王に平伏した彼だが、その心は高潔であり、例え旧家の純血だろうと品性が下劣な者を彼は軽蔑する。
だが、息子がエドワードを欲しがった。驚く程賢く育ち、我儘を滅多に言わない息子が『欲しい』と口にした。
ならば、与えてみようと思った。そして、息子がエドワードをどう使うのか見てみようと思った。
息子がヴェニングスの下劣な品性に染まるようなら突き返せばいいと考えた。
ドラコはエドワードに対してとても親切に接した。
孤独を癒やし、求めるものを与え、時には痛みを覚えさせ、彼の心を支配した。
それがエドワードにとって幸福な事なのか、不幸な事なのか、彼自身でさえ分からない。
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