STAGE7:「ゲットー の 凱歌」
青鸞の朝は、基本的に肌寒さから始まる。
彼女の部屋は解放戦線の士官が使用する部屋と同じ構造になっている、とは言えそこまで豪奢な部屋であるとは言い難かった。
広さとしては、ちょっとしたワンルーム程度だ。
ただ基本的には、個室の体裁を整えただけのベッドルームである。
お風呂(天然の温泉を改造)とトイレ(男女別)は共用のため、文字通り簡易ベッドしか無い。
青鸞には特別に衣裳部屋があるものの、それを除けばほとんど他の士官と同じ生活をしていた。
まぁ、士官でも藤堂や草壁などの高級幹部になれば専用の執務室があるのだが。
「……ん……」
繰り返すようだが、青鸞の朝は肌寒さから始まる。
自然の陽光が入ることが無い地下の室内、空調が入っていない時などは特に冷える。
肌の感覚が敏感なのか、肌寒さを感じた時に彼女は目を覚ます。
なぜ寒さを感じたら目を覚ますのか、それは単純に言ってそれくらいでも無いと風邪を引くためだ。
「……んー……」
大して柔らかくも無い寝台の上で、黒髪の少女が上半身を起こす。
はらりと肌の上を毛布が滑り落ちれば、薄暗い中に白い裸身が浮かび上がった。
途端、やはり寒さを感じてブルリと身を震わせる青鸞。
自分の身体を抱くように回した手には、冷え切った肌の冷たさが伝わってくる。
見れば下着も身に着けていない、全て寝台の下に落ちていた。
白の襦袢と朱色の帯、そして上下の下着の一式……今朝は何故か枕のカバーまで剥かれている。
別に誰に脱がされたわけでも無い、少女が寝ている間に自分で脱いだのである。
肌寒さと共に目覚める青鸞は、だいたい次の一言で一日を始める。
「……また、やっちゃった」
枢木青鸞、未だ寝ている間に脱衣する癖は直らず。
彼女は溜息を吐くと、するりと寝台から降りて、散らかした衣服の片づけを始めたのだった。
◆ ◆ ◆
「あら、お兄様。おはようございます、もしかして私の顔を見に来てくださったんですか?」
「……いや、そう言うわけでは」
「んもぅ、そんな困った顔をなさらないでくださいな。冗談です、冗談」
青鸞が目を覚ましてからちょうど一時間後、青鸞の部屋の前ではそんな会話が繰り広げられていた。
声の主は雅であり、そして彼女の前に立つ軍服姿の大和だった。
共に榛名の姓を持つ兄妹であって、キョウトの分家筋の出である。
キョウトの家から、青鸞に半分同行する形でついてきた2人だ。
ただ兄はナイトメアパイロット、妹はスタッフ扱いで青鸞に付いている少女だ。
これまでナリタでも会うことはほとんど無かったのだが――それこそ、夜寝る時くらいなもので――大和が青鸞の護衛小隊に配属になってからは、こうして昼間でも会う機会が増えたのだった。
雅は仏頂面で固まる兄に苦笑を浮かべると、衣装袋らしき荷物を抱えたままで後ろを示した。
「青鸞さまならお着替えもお済みだから、もうすぐ出てきますよ」
ほら、と雅が言う間に士官用の部屋の扉が開き、中から薄い青の着物に身を包んだ青鸞が姿を現した。
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