ハーメルン
Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】
第1話 英霊
「――っ! あれ……いつもより痛くないぞ……?」
間桐雁夜はいつもと違う目覚めに困惑した。
初めて刻印蟲に身体を蝕まれてからおよそ1年、雁夜は常に襲い来る激痛と戦い続けている。その痛みから逃れられるのは睡眠時のみ……なので必然的にその痛みと向き合うことになる寝起きは最悪なものであるのだが、今日は違った。
痛いことは痛いのだが、まあそれなりという程度で普段のような強烈な吐き気もなければ、身を引き裂かれるような辛さもない。彼の基準からすれば間違いなく本日の体調は快調そのものといえた。
「えっと……俺は――」
いつもより遥かにクリアになっている頭、それなのに寝る前の記憶だけはそれ以上になにかもやがかっている。
しっくりこない感じに違和感を覚えながら雁夜はベッドを降りひとつ伸びをして屈伸をし……やはり体調が良いと再度実感した。体操が不快ではなくまともな体操の効果をなしている。こんなことはこの1年なかったことだ。ブラインド越しに覗く日差しも鬱陶しくはなく、むしろ清々しい。
「あ――」
試しにブラインドを開け差し込む陽の光、その光が昨晩の光景とリンクしたのか。
一瞬にして雁夜の頭に昨夜の出来事が洪水のように流れ込む。体調が良かったからできたことか。反射的に雁夜は駆け出した。その姿を見るものがいたならば、まるで普通の朝を急ぐサラリーマンか何かのように見えたことだろう。
「おじちゃん……これ、おいしい!」
「ふむ、それは良かった。おかわりも用意してあるから遠慮せずに食べると良い。出来ることならおじちゃんはやめてほしいが――」
「……だめだった? おじさんみたいに髪が白いから……」
「……ダメというわけではないが……そうだな、それよりもそろそろマスターを起こしに」
「いや、何してんだ? お前」
失念していた手の甲に浮かぶ令呪の存在を思い出し、そこから感じる何かに引っ張られるようにして雁夜が駆け込んだのは居間だった。
なぜ英霊が居間に? 浮かんだ当然の疑問。しかし彼の目前に飛び込んできたのはその疑問すらきれいさっぱり吹き飛ばす……あまりに普通の日常の光景だった。
食卓に並ぶ朝食――どこからどう見ても純和風――がお気に召したのか明らかにサイズの合わない椅子でつかない足をパタパタと振って笑顔を浮かべる桜、一体どこで調達してきたのか、それよりも何故その筋骨隆々高身長の身体に似合うのか、とにかく異様なほど様になっているエプロン姿で更に何か作ろうとしているのかフライパンを振る、昨夜自分が召喚したはずのサーヴァント
疑いの余地なく普通の食卓だ。ただそれを構成しているものがおかしなことになっているだけで。
「む、起きたかマスター。少し待ちたまえ。ちょうど君の分の鰆を追加しようとしていたところだ」
「……あ、おはようございます。おじさん」
「あ、おはよう。桜ちゃんも……あーあー、醤油ついてる。ほら、拭いてあげるから」
「うー」
当たり前のように挨拶をするサーヴァントに思わず反射的に挨拶する。そして振り向いた桜の口付近に大量についていた醤油をふきんで拭き取ると雁夜もその隣に座ることにした。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/6
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク