第九話
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大きなタライを掲げてプルプル震えているキャロルを無視して、朝食会は進んで行く。
給仕のキャロルが役に立たない以上、コーヒーや紅茶は自分で淹れるしかないが、そこはまあ許容しておくことにする。
というか、最初はそこまでするつもりもなかったのだが、ミコトがコーヒーカップを持った瞬間にキャロルが目を輝かせて「ご主人様! コーヒーは私がお淹れします! ああ、ですが困りました! 両手がタライでふさがっている以上、ご主人様にコーヒーを淹れて差し上げることができません!」などとうるさかったのでミコト自身がやることになった。
さすがにエヴァンジェリンにまでやらせるようなことはしたくなかったので、彼女の分の紅茶はミコトが淹れている。
それを見たキャロルの顔色は絶望に染まっていたが、二人の中でキャロルは空気と同じ扱いになっているので、気にはしない。
そんなわけでミコトは、エヴァンジェリンの分の紅茶のお代わりを注ぎ、しくしく泣いてうるさい空気の脇腹をつついて「ひゃうっ!!」と奇声を上げさせてから自分の席にもどる。
その様子を呆れたように見ていたエヴァンジェリンは、何事もなかったように食事を再開したミコトに向かって話しかける。
「しかし、先ほどの武器といい、この自動人形といい、お前の技術力は大したものだな。長い年月を生きただけではここまでの物は作れないだろうに……」
「そうかもしれないね。まあ、私の場合は生き残るための手段として主に『技術力』を選んだからね。命がかかっていれば文字通り必死になれるものさ。そのおかげで安全も情報も資金も手に入った。何も言うことはないね」
「なるほど、根っからの研究者、もしくは発明家、という感じなんだな、お前は」
ミコトの話を聞いて、エヴァンジェリンはミコトに抱いた印象を簡潔に述べる。
多くの情報や知識、技術を求め、それらを解き明かし、さらには混ぜ合わせ、全く新しい、自分だけのものを作り出していく。まさに研究者、発明家そのものだと言える。
「だがそれにしても、ここまで人間らしい自動人形を作るのは並大抵のことではなかったろう。そこでプルプル震えているあれだけを見てみても、おそらく世界中の技術の数百年先を行っているだろうさ。体はもちろん、あの豊かな感情についてもな」
エヴァンジェリンの従者である人形にも感情はあるが、あそこまで豊かではない。
「まあ、体はともかくとして、感情については私が作ったわけではない。基礎を組み立てて、あとは背中を押しただけで、あそこまでの感情を持てたのは彼女自身の努力と意志によるものが大きい」
「……? どういうことだ?」
「先ほどこの駄メイドは自分のことを試作型自動人形第零号機といったね? 第零号機、つまりこの駄メイドは一番初期に作られた試作機なのだよ。まあ、実際にはさらに前に5体ほど作ってはいるがね」
「先に作ったものがあるのに零号機? 矛盾していないか?」
「その通りだ。しかし、最初に作った自動人形は作業用でね。命令に従うだけで感情は持っていなかった。だがそれではつまらないと思い、感情を持つことができるように作った最初の機体が、そこの駄メイドなのだよ」
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