第一話
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気がついたら森の中に立っていた。
神に言われた通り、先程まで暗い下り階段を松明を頼りに下りていたが、10分ほど下り続けると明かりが見えてきた。
光り輝く出口を抜けると眩しさに目が眩み、目が慣れてみると周りには見渡す限りの緑が広がっており、生い茂っている樹木のせいで空もろくに見えない。まさに樹海とも言える場所だった。
背後を見てみるも、階段どころか出入り口もない。
……階段を抜けるとそこは森だった、か。ふむ、私に文学の才能はなさそうだな。
苦笑しながらあたりを観察するも、神が願いを叶えてくれたのだろう、人の気配はない。
……さて、転生というものをしてはみたものの、これからどうしたものか。……もらった能力の訓練をするにしても、ひとまず拠点を探さねばならんかな。さしあたり木の洞や洞窟等が定番か。
そんなことを考えながら適当な方向へ歩きだす。
しばらく歩くと少し開けた場所が見えた。大きな木が倒れているところを見るに、どうやら大木が寿命を迎えて倒れてしまい、ぽっかりとできた隙間のようだ。
やっと空をまともに見ることができ、なぜか安心してくる。
……転生などという経験をしても、太陽の下に生きる生物は日の光からは縁が切れないのか。
そんなことを考えながら見上げた空には雲一つなく、そんな空模様も相まって、なんだか柄にもないことを考えていた自分が可笑しくなってくる。
……もらった能力を確かめるためにも集中できる場所が必要だ。こんな深い森だ、人が来る心配はないだろうが、猛獣の一匹や二匹いてもおかしくない。何か来ても入り口をふさいで籠城できる洞窟か、敵を早く見つけられる小高い丘、あるいは開けた場所が適している。ここなら広さも十分だね。とりあえずここを暫定的な訓練所としようか。
大きな切り株を中心にした空間は、地中に潜る根のせいかところどころデコボコはあるが、それさえ気にしなければ天然の芝生の生えた広場だ。
中心まで歩いていき、ローブを脱いだミコトは、自分の体を確かめる。
「スーツ姿か。確かにこの姿にはあっているが、この時代には前衛的すぎるな。何かこの時代に合った服を考えなくては」
スーツがある程度着られるようになるのは18世紀辺りからのはずなので、指定した年代に送られたのなら今は14世紀。場違いもいいところだ。
「かといってローブ姿でも怪しい。人前に出るためにも何とかしなければな。……まあそれはおいおい考えるとしよう。まずは今できる事の確認と行こうか。あのおせっかい焼きのことだ、おそらくは……、あった」
歩いている途中から気になっていたローブについている内ポケットの違和感。落ち着いた場所につくまで見ないで置いたそれを確かめると、封筒入りの手紙があった。開けてみるとそこには、
『この手紙を見ているということは、儂はもうおぬしの前にはいないのじゃろう』
「……あんたがこの世界に送り出したんだから当然だろうが。何で自分が死んでいるような文面なんだ……?」
『とまあ冗談はさておき、この手紙にはおぬしの現状と能力の使い方を記してある。よく読んで覚えておくように。テストに出るぞ!』
「何のテストだいったい。全く何でこんな無駄な文章を……」
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