第七話
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激しい戦闘――攻撃側と防御側がはっきり分かれていたが――が終わり、エヴァンジェリンとミコトは屋敷に戻り、中断されていた朝食会を再開することにした。
冷めてしまった料理はキャロル(エヴァンジェリンを着替えさせ、屋敷の中をミコトのところまで案内してきた侍女の名前)に頼んで温めなおしてもらっている。
作り直す、とも言われたが、ミコトは、材料が無駄になるから、と断った。
いくら不死者でも、否、不死者だからこそ、ものの大切さは理解している、と言って。
と言う訳で、今2人は朝食会場である部屋で向かい合って席に着いている。
ミコトは最初に座っていたのと同じ席にゆったりと座り、エヴァンジェリンはその対面に上品に座っている。
さすがは元貴族というだけのことは有る。
……まあ、事情を知らなければ10才の女の子が背伸びをしている微笑ましい光景にも見えてしまうが。
本人が聞いたらまた先ほどのような戦闘が開始されるようなことを考えながら、ミコトは口を開き、
「さて、少し暇な時間ができてしまったね。この間に何か話しておきたいことなどはあるかね?」
と尋ねた。
それに対し、エヴァンジェリンは真剣な顔で答える。
「ああ、聞きたいことなら山ほどあるな。まず第一に……、お前はいったい何者だ?」
「何者、とは?」
「そこらへんにいる奴ならば『人間』、私ならば『吸血鬼』。ならばお前はなんだ?外見的特徴は人間と大差ない。だから亜人ではなさそうだ。だが異常なほどの強さと理不尽な性能の武器を持ち、さらには不老不死。どう考えても普通の人間ではないだろう。……だからこそ聞きたい。……お前は『何者』だ?」
「ふむ、私という存在の定義を聞きたいのかね。ならば簡単だ、その答えはたったの一言で済む」
「ほう、それは?」
エヴァンジェリンは思わず身を机の上に乗り出して続きを促すが、
「―――ぶっちゃけ私にもわからんのだね、これが」
その答えに力が抜け、思い切り机に顔から飛び込んだ。
ガンッ、ともズンッ、とも聞こえるような形容しがたい音を立てたエヴァンジェリンと机を交互に眺めたミコトは、
「どうしたのかねエヴァ君。私の神の如き言葉に感動して頭を垂れるのは良いが、そんなに勢いをつけて頭を打ったらいくら不死者とはいえ馬鹿になるよ?」
不思議そうに言い放ったミコトの言葉に、エヴァンジェリンは勢いよく顔を上げ、
「きっ、貴様にだけは言われたくないわ!! 自分のことがわからんとか、馬鹿以外の何物でもないだろうが!!」
「人間、自分のことが案外一番わかっていない物だよ。それを補うために人は鏡というものを発明したのだから。……まあ、ここにはまともな人間は一人もいないがね」
額を赤くし、若干涙目で叫ぶエヴァンジェリンに、ミコトは飄々と返す。
「だからと言って何もわからんはずもないだろう。生まれた時の状況とか、記憶とか、何かないのか?」
その問いに対し、ミコトは少々困ったような顔を浮かべ、つぶやくように言葉を紡ぐ。
「……何もない。私は気が付いたら『私』だったからね」
「なに? ……どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。約200年前、私の記憶が始まったとき、私はすでに私だった」
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