俺、転生オリ主になります
「……なんだってこのクソ暑い中、外回りの仕事をせにゃあならんのだ」
ついつい愚痴が漏れてしまったが、大目に見てほしい。
何といっても、今日は夏真っ盛り、最高気温は35℃に登り、テレビは異常気象だと騒ぎ立てている。
そんな頭がおかしいような猛暑日だというのに、俺は取引先のお偉いさんに会うために、電車で1時間、バスで1時間、徒歩1時間(少々誇張は入っているが)の別荘を訪ねなくてはならなくなったのだ。
しかも、まだ往路だというのに、持参したミネラルウォーターを半分は飲んでしまった。
相手は気難さで有名な人だから『水を分けてください』なんて言えば、不機嫌にさせるかもしれない。
従って、帰りに飲む分の水を確保するためには、残りの道を水分補給なしで踏破しなければならないのだ。
自分の準備不足の事など棚に上げて、愚痴でも溢さないとやっていられない。
「くーっ、せっかくの別荘なんだから、交通の便がいいところに立てておけよ。そしたら行きやすいだろうが……って、んん?」
ふと道の脇を見てみると、そこには井戸らしきものがあった。
喉が渇いている俺は、果たして飲めるものだろうかと、確認をしに行く。
「田舎とかだと、まだまだ井戸は現役だって言うしな。ちょっと味見を……、こりゃ美味い!」
井戸の水は、明らかに清涼だとわかる味で、俺はすっかり安心してガブガブと井戸水を飲み始めた。
その時だ。
「何を望む?」
目の前に、何の前触れもなく女神が現れて、こう言った。
いや、本当に女神かは分からない。
だが、整った顔立ち、水面のように靡く美しい金髪、シミ一つ見えない純白のローブ、そして心なしか見える、彼女の周りの薄く白い光。
そんな現代社会から浮いたような彼女の存在を、俺は、女神か何かだとしか思えなかったのだ。
『本当に願いをかなえてくれるのか?』
『貴方は神様なのか?』
そんなことを尋ねそうになった自分の口を、慌てて捻じ止める。
もし叶えてくれるのならば、そんなことを聞く必要はないし、叶えてくれないなら聞いても意味がない。
なのにそんなことを聞いて『その質問への答えがあなたの望みね』だの『気分を害したから帰る』だのと言った返答が返ってきたら、一生悔いが残るだろう。
ならば今考えるべきは、自分が何を願うかだ。
と言っても、自分の中ではもう、ほぼ決まってしまっているのだ。
現代人が神様に願うことと言ったら、転生しかないだろう。
嘘ですごめんなさい、言いすぎました。でもやっぱりロマンだと思わないか?
自分がこの世界で死んだ後、強い力と現在の記憶をもって、別の世界に転生することを願うのだ。
そしてその世界で無双する。これは現代日本のトレンドともいえるだろう。
そうと決まったら、さっさと女神様に言うべきだろう。
時間をかけてる間に、愛想でも尽かされたら元も子もないのだから。
とは言っても、適当なことを言って、ネタ系転生小説のように、歪な存在に転生してしまったり、劣悪な条件で転生させられたりしたくはない。ここは慎重に条件を付けるとしよう。
「私がこの世界で死んだ後、一般的日本人が想像するような、剣と魔法のファンタジー世界に、高貴な身分を持つ人間として転生させてください!その時、その世界で生かせるようなチート能力を使えるようお願いします!」
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