こうじょうけんがく
ゆっくりと回る歯車、その一点に取り付けられた鋭い針が、地上10mの高さのサンドバッグに吊るされたバブルに、小さな傷をつける。
外敵からの攻撃に晒されたバブルは、その針が回ってくる度に、本能からくる反射で自らの分身を生み出していく。
そうして生まれた分身が、重力に従ってドサリと下に落ちた。
そこには数多の自分と同じ分身達が、ひしめき合っている。
どうやら、自分と同じように上から落ちてきた様子、足の踏み場はその全てがバブルで埋め尽くされており、全く床が見えない状態だ。
すわ何事か、と産み落とされた分身は周りを見るも、そこには自分を中心とした、直径1m程度の円の形をした、高い壁がそり立つばかり。
上を見れば、青い空とサンドバッグに吊るされたバブルが見えるが、液体に近い自分の身体で、そこまで登れるとは思えなかった。
取りあえずここから出たいが、どうした物かと悩んでいると、上からまた新しくバブルが落ちてくる。
サンドバッグに吊るされたバブルが、歯車の針に刺激され、また新しく分身を作り出したのだ。
バブルの数が増えた分、当然この壁の中のバブル達の嵩が少し増す。
『これが繰り返されれば、他のバブル達を足場にして外に出れるのでは?』と分身バブルは考えた。
少し先の展望が見えたことで、軽やかな気分になるバブル。
そして、更に新たに落ちてきたバブルを期待と共に見ていたところで、異変に気付いた。
足場が、正確には自分の足元のバブル達が、グラグラと揺れ始めたのだ。
またも引き起った異変に、バブルが戸惑いながら上を見る。
すると、サンドバッグバブルの、更に先にある空が遠のき始めた。
自分の下にある、バブルの足場の高さが、下がって行っているのだ。
いったい何事が起きているのだろうか、そう思っていると、またも上からバブルが降ってきて、今度は自分に覆いかぶさった
このままでは、上から脱出することは不可能になるだろう。
床が下がる上に、次から次へと、上から別のバブル達が降ってくるのだから。
しかし、足元のバブルが減っているということは、きっと下のバブルがどこかへ消えたという事。
ならば、そこにここから出る術があるかもしれない。
そう思って、分身バブルはひとまず流れに身を任せることにする。
見通しが甘かった。
そうバブルは気付いた。
下に行けば下に行くにつれて、上に積み重なったバブルの重みで、自分の身体に相当な負荷がかかっていく。
このままでは自分は潰れてしまうだろう。
今ならば、何故足場の高さが下がって行ったのかわかる、皆こうやって潰れて行ったのだ。
上からかかる重圧で、もはやまともに身動きも取ることができない。
残された道は、ここで潰れて死ぬことだけだろう。
別に死ぬことは構わない、バブルである自分にとって、群体の一部に過ぎない自我に、別段こだわる必要等ないのだから。
ただ、何をなすでもなく、そのまま死んでいく事だけは少し心残りだろうか。
とうとう下がりに下がって、最下層にまで着いた。
其処にはようやく床が見えたが、自分と同じバブルであっただろう存在の血液に塗れている。
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