ハーメルン
◆それは生きている
コレクターになら欲しがられるんだけどね

 ダルフィの自分の露店で、ロックは笑顔ながらも困ったような顔、という小器用な真似をして、先ほどと同じ話を繰り返す。

 「せやから、コイツだけはどぉーしても売れないんですよお客さん。エライすいませんけど、コレばっかりは分かって下さい」
 「そう言わんでくれよ、ワシと君との仲じゃあないか。金ならホラ、今回は600万gpは用意してきているんだぞ?コレだけあれば、商売の方もグッ、と楽になるんじゃあないのかね?」

 ロックの前で、20分ほど前から粘っているのは、でっぷりとした体形に、口元に蓄えた白い髭、見るからに高そうに見えるスーツらしき(貴族社会のっぽい服だが、よくわからん)衣服を身に着けた、貴族然とした男だ。名をミラーと言うらしい。

 なんでもロックとは、彼女が商売を始めたころから、数年来の付き合いだそうだ。コレクション目的で、よく生きた武器を購入していたらしい。
 ここまでの会話を軽く聞いた感じでは、今迄に数百万gpの金額をこの店で使って来たようで、この店にとっては上得意のお客さんという訳だ。

 そしてそのミラーだが、今回も生きた武器を買いに来て、見つけてしまったのだ。
 そう、ロック曰くメチャクチャ価値があって、部屋に一つ置くだけで、家の評価がぐんと高まるであろう、俺の存在を。

 ミラーはその貴族っぽい見た目の通り、戦闘などを生業としている男では無く、コレクション目的で俺の事を欲しがった。
 当然俺としては、決してそれを受け入れることはできない。下手したら、一子相伝の家宝みたいなノリで、飾り物として額縁かなんかに入れられかねん。永遠に活躍できない空間で、生物と鉱物の中間の生命体として生き続けるのはご免こうむる。

 それに対してロックはというと、

 「ウチの方としても、ミラーさんにはお世話になっとりますし、お譲りしたいのは山々なんですが、この剣との約束があるんでどうしてもできないんですわ。いやもう、コイツが戦うんが好きで好きでしゃーない奴でして、自分が納得できるような使い手じゃないと許さん、って聞かんのですわ」

 丁寧な態度を崩さないながらも、しっかりと断ってくれている。
 以前交わした、戦闘を行わず、コレクション目的の相手には売らないという約束を守ってくれての事だろう。

 「戦闘がしたいなら、専用の冒険者を雇って、毎週ネフィアで戦えるようする!それなら問題ないだろう?」
 「ええ、あー、うん。ウチとしてはそれなら問題ないカモとは思っとります。でも、今話しかけてきたんですが、こっちの剣の方が、ちょっと信じられないんだそうです。自分には呪いがかかっているから、その契約に乗ってくれるような冒険者を雇うのも一苦労やろし、そんな約束を手に入れてから守る保証がないってんで。
  いや、ウチは他ならぬミラーさんのことだから、信じとるんですよ。でもこの剣が気に入らん奴には、売らへんって約束してしまったもんで。せやからすいません、この剣については勘弁してください」

 別に俺は、ロックに対してコイツが信用ならないとか言ってはいない。思ってはいたが。
 だから、これについてはロックが、俺がそれに思い至らない可能性を考慮して、先回りして断ってくれたのだろう。

 そうやって、さらに1、20分ほど押し問答が繰り広げられたが、最後にはその貴族の男は不機嫌そうに去って行った。

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