「長谷川さんはカブトムシの力の強さを知ってるか? 」
私は長谷川さんが見ているカブトムシの入った虫籠を持ち上げ、膝ほどの高さの丸テーブルの上に置く。それから私と長谷川さんはその丸テーブルを挟むようにして座った。
「……逆に聞くが一般の女子中学生がそれを知ってると思うか? 」
長谷川さんは、むしろ知っている私がおかしいと言いたげな表情をしていた。まぁ確かに一般の女子中学生ではないんだが、そこまで眉を寄せた表情をされるとなんとなく面映い気持ちになる。
私は虫籠から一匹のカブトムシを取り出すために中に手を入れる。敵襲だ、と騒ぐようにカブトムシが一瞬抵抗するが、両脇をなすすべなくつかまれるとそのまま引き上げられて机の上に置かれた。ついでに脚に付いていた土などが机にこぼれるが、私は気にしない。
「基本的には自身の体重の約20倍の重りを引っ張ることが出来ると言われているんだが……」
「その前にちょっとまて。こいつなんかでかくねーか? 」
話を遮るようにして長谷川さんが言う。指でつんつんと背中をつついている所を見ると、カブトムシに触るのにあまり抵抗はないらしい。カブトムシは机の上でふてぶてしい態度になり、なんだよ、と強気で長谷川さんを見ている気がした。
「確かに標準よりは大きめだな。何より角はかなり大きい」
カブトムシなど幼虫期間がある昆虫は、幼虫時のサイズによって成虫時の大きさが作用されることが多い。幼虫期間に世界樹の朽木で育てた分、大きなサイズのカブトムシが誕生するのは予想の範疇であった。雄同士の闘争に使われる角は特に影響を受けるらしく、少し不格好にも見えた。まぁ自然界では、角が大きければそれだけで有利ということでもないのだが。
余談だが、私はカブトムシの雌にも角が生える可能性も期待していた。カブトムシの先祖はそもそも雌雄共に角を生やしており、雌は進化の過程で二次的に角を無くしたと言われている。つまり、潜在的には角を生やす能力はあるわけで、世界樹にそこまでの力があることも若干期待したのだが、そんなことはなかった。流石に雌雄差をひっくり返すまでは出来ないようだ。
……もしそんな力があり、人にも作用していたら、中々悲惨な事になっていたかもしれないが。
「そんで? 世界樹の影響受けたこいつは一体どのくらいの重さまで引っ張れるんだ? 」
「まだ詳しく計測したわけではないがな、自重の約60倍はいけそうだった」
つまり、影響を受けてない個体の約3倍の力を出せることになる。
「ほーん。結構すげぇんだな、お前」
長谷川さんはカブトムシに話しかけながら、胸部に生える角を指でうりうりと押していた。カブトムシは長谷川さんの指を一生懸命に押し返していて、その動きが嫌がっているようにも甘えているようにも見えた。
「…………思ったより反応がうすいな」
適当な反応に何だか寂しく思ったりしてしまった。
「いや世界樹のおかげで力強くなりました。って言われても、何となく予想が出来たというか」
それもそうか、と私も自分で納得した。この情報も前回分かった白蟻の件があってこそであり、長谷川さんにとっては新鮮味が少なかったのであろう。実際、表現形の変化 と力強さの変化は結構異なる話ではあるのだが。
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