学園長からその言葉を聞いたとき、私の心は想像よりもずっと落ち着いていた。前々からこのような場面が起こり得ることを想定していたと言うこともあるし、この場所の異様な雰囲気が逆に私の気持ちを落ち着かせているというのもあるかもしれない。
ちらりと、石像の方を見る。物々しい灰色の石な綺麗に研磨され、まるで3Dのフィクション映画を見ているようだった。目には一丸の黄色い光が宿り、真っ直ぐと私を見ている。手に持っている大きな剣を両手で地面に突き刺しており、なんとなくだが、いきなりそれで切りつけられるということはない気がする。
「…………一体なんの話ですか ? 」
私が初めに選択したことは、とぼけるというものだった。この場から最も綺麗に離脱する、つまりはこの問答の私のベストな帰着点は、私がしていたことを隠し通した上で、地上に帰してもらうことだ。
学園長が一体何者で、世界樹を調べる者をどうしたいかは分からないが、何事もなくこの場をやり過ごし、明日からまた今まで通りの日常になれるのが一番良いのは明白だ。
目を下にやり、③の場所だけ崩れている台をみる。隙を見て先程夕映達が落ちていった穴に飛び込もうとも思ったが、地上に戻る仕組みを学園長が管理している可能性を考えると、それは危険でしかない。トランシーバーも突然音がしなくなり、再び使用できるとは思えなかった。
『フォッフォッフォ。とぼけても無駄じゃよ。お主たちの今日の教室での一連の会話はその時クラスに残っていた者に聞いておるし、世界樹の枝を大学の研究室に持ち込んでおったのも、裏がとれておる』
「…………」
どうやら学園長は確定的な証拠を既に掴んでいるらしく、簡単には言い逃れできないようだ。これで、もはや私のベストな条件の達成は不可能であることが分かった。
私は安易に口を開かず、学園長の目的を考える。この本のことや世界樹のことを探ろうとする訳を聞くのは、何故なのか。
当然最も思い当たる理由は、これらのことは、誰にも知られてはいけないことであるから、というものだ。
いつか長谷川さんに話したように、麻帆良には異常を異常と認識出来ない仕掛けがある。それを仕掛けたのが、世界樹などの秘密を外部に漏れないようにするためであり、 学園長が主犯だとすれば、この問答の意義は納得できる。
私が世界樹の仕組みを探り、そのために魔法の本を手にしようとしたことも、学園長は把握していると考えた方がよさそうだ。
これらの秘密をなんのために一般市民に隠そうとしているかを考えるのは、とりあえず置いておこう。
不思議パワーの異常さを考えれば、それらを流出させないために隠すのは理解できるし、他にも理由があるのだろうが、はっきりとした答えを得るには参考材料が足りていない。
「……そうですね。単純に興味があったから調べてみようとしただけですが」
とりあえず、当たり障りのないことを言う。だが、実際に嘘はついていないどころか、これが真実で全てである。
『興味…………のう。それで、調べてみてどうじゃった』
石像は、全くといっていいほど動かないまま私に尋ねる。相変わらず黄色に光った目は私に向いていて、どこか薄気味悪く感じる。
「それは、もう。驚くことがたくさん」
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