第十話「ひなあられの時間だ!」
三月末日、14:55、大阪。
第七回、サクラザク・スプリングガンプラフェスティバル。
世紀の一戦を控え、満員の観衆が詰め掛けた大阪城ホール。
しかし今、その興奮のフィールドからは、微妙な戸惑いの声が溢れていた。
会場の中央、バトルフィールドを挟んで向かいあった、二組の陣営。
西側に陣取ったのは、今大会の台風の目、チーム『覇我悪怒コネクション』
だが奇妙にも、この決勝まで単独で勝ち上って来た男の傍らに、一人の参謀が控えていた。
ビリー・カーンでも無ければ、無論、リッパーでもホッパーでも無い。
腕組み仁王立ちで不敵な笑みを浮かべるドヤ顔の少年。
その取り合わせが妙であった。
「……うそ、あれって」「心形流のサカイか?」
「なんでギース様の隣に……?」「あれ? うん、けど……」
「……どうりで」「ああ、どうりで」「どうりで、だね」「うん、どうりで……」
「――ってオイ!? 聞こえてんでっ!
皆して何なんや、そのリアクション!?」
イナクト顔負けの集音性を発揮して、サカイ少年が狼狽の声を上げる。
堪え切れず「グッ」と、むせるように噛み殺した笑いが一つこぼれる。
「お、おっさん! アンタもかい!?」
咎めるような少年の声を、若ギース様が俯き気味の仏頂面でやり過ごす。
これ以上付き合うと、素のミナミマチ・シゲルに戻りかねない危険事態であった。
「どうりで、としか言いようが無いやん、そりゃ……」
「アイツはホンマ、周りの評価がよう見えとらんのう」
会場の片隅で、ガンプラ心形流が先達、珍庵和尚とヤサカ・マオが頷きあう。
表情の硬い東方の面々に比べ、西方は今一つ、気合が空回っているかのようであった。
その一方の東側陣営、チーム『トライファイターズ』
こちらはこちらで、ある種の、焦燥にも似た緊張が二人を包んでいた。
これまでカミキバーニングの調整試合としつつも、常に三人一組で目の前の戦いに臨んで来た、トライファイターズ。
その要である筈の拳法少年、カミキ・セカイが、どこにもいない。
「セカイくん……、何か、あったのかしら?」
「アイツに関しては余計な心配はいらないと思いますが……。
進行を遅らせるわけにも行きません」
心配げに客席を見渡すフミナに対し、ユウマが一つ溜息を吐いて、傍らの鞄を手に取る。
「万一の時は、僕が代わりに出ます」
きっ、と顔を上げ、一歩踏み出したコウサカ・ユウマを、正面の若ギースがちらりと見つめる。
「カミキ・セカイは、やはり、間に合わぬ、か……」
「アホ抜かせ、アイツは来るで、必ずな」
「そう願いたいものだがな」
妙に肩を持つミナトの発言に、若ギースが小さく苦笑する。
なお、この時の彼の台詞は、決して皮肉では無い。
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