第二話「どきどきハワード神判!」
ガンプラ心形流は、往年の名ガンプラファイター、珍庵和尚によって創立された、大阪に拠点を構えるガンプラ造形術の一大宗家である。
「ガンプラ作りは当人の心を写す鏡」と言う氏の理念により、その修練は技術論よりも精神修養を旨としている。
概念的な流派で体得に時間がかかるが故に、他のセミナーやガンプラ教室に比して受講者は少ないものの、その内弟子からはヤサカ・マオやサカイ・ミナトと言った有能なビルダーを輩出しており、今日の日本のガンプラバトル史を語る上で、決して外す事の出来ない存在である。
以上が、行きがけの新幹線の中で読んだ『別冊アストナージグレート:神技ビルダー列伝』なる、いかがわしい本からの抜粋である。
ガンプラ造形術。
我々素人には理解の及ばぬ世界であるが、考えてみればさもありなん。
ガンプラビルダーたちが日夜相手にしているのは、現代のブラックボックスとまで称される、あのプラフスキー粒子なのだ。
極端な話、塗料の種類、塗り方一つを取ったとしても解釈は変わる。
一たび粒子を介したならば、素材が変わり、強度や機体の性能が変わり、それがそのままバトルの勝敗へと直結する。
ましてやガンプラバトルは今や、全世界の注目を集める一大祭典である。
舞台に立つファイターだけの問題では無い。
選手を支えるワークスチーム、サポーター、スポンサー、そしてトレーナー。
人が動き、即ち多額の金が動く、キレイゴトだけでは済まされない。
たかがガンプラ作り、されどガンプラ作り。
門外不出の奥義の一つも生まれようと言うものだ。
このような瑣末な出来事にいちいち驚嘆していては、獣神武闘会は生き残れない。
ともあれ、新大阪より市電を乗り換え40分。
ガンプラ心形流の総本山は、閑静な田舎町の山裾にあった。
四季折々の色合いを見せる簡素な中庭に、長い年季を感じさせる木造の本道場。
いかにも精神修養の場に相応しい趣であるが、騙される事なかれ。
ガンプラが初めて発売された1980年以前に、心形流の道場など存在する筈がない。
即ち、古き良き日本の伝統溢れるこの建物は、寺の主である和尚がガンプラに傾倒するあまり、元からあった本堂をガンプラ製作用に改装したものか。
あるいは多額の賞金を費やして、わざわざ旧日本寺院風に建築された新道場、と言う事になる。
いずれにしても凄い漢だ。
そして今、俺はそんな凄い男、ガンプラ心形流開祖・珍庵和尚と、道場の板間を挟んで向かい合っていた。
「ま、ま、お若いの、今日はわざわざ遠い所から来なすったんや。
そう硬くならんと、膝も崩しなさい」
「は、はい!」
アポなしの突然の来訪にも関わらず、目の前の老人はそう言って気さくな笑みを浮かべた。
もっとも、俺の方はひたすらに恐縮するしかない。
一見そこいらの楽隠居と言った風体の小柄な老人ではあるが、俺には分かる。
一流派を修めた達人のみが持ちうる究極の自然体、その有り様はまるで、かのタン・フー・ルーのようではないか。
「さて、何や、ウチの道場に入門したい言う話やったが……。
ガンプラ心形流なんぞと言う大層な看板を掲げとるがの、ウチは元々、同道のモンが好き勝手にやっとるだけの集まりや。
月謝なんぞもいらんし、納得が行くまでココに逗留してくれて構わんで」
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