第三話「I'm not BOY.」
ズムッ
無人の市街地に一瞬、閃光が走った。
ビルディングか穿たれ、大地が僅かに鳴動する。
おお、と観客席からどよめきがこぼれた。
彼らも皆、一角のガンプラ愛好家である。
ガンプラバトルにおける花形は、やはり白兵戦。
真正面から向かい合っての高速戦闘にあるのだが、一方でこう言った遮蔽物の多い戦場での駆け引きも、中々に乙なものだと考える身巧者も多い。
だが、それにしても今日の歓声は、やや熱い。
無理からぬ話であろう。
現在、このフィールドで闘っている『男』の素性を思えば……。
「フン、ビーム兵器、か」
真っ赤に穿たれた熱線の爪痕を、袴姿の男が苛立たしげに見下ろす。
ゆるりと顔を上げ火箭の出所を追うも、そこには何ら、機影は見当たらない。
「どうだビリー、今ので何か分かるか?」
『誰がビリーやボケぇ!?』
無線口より、たちまち関西弁のビリー・カーンが捲し立てる。
『……とは言え、けったいな状況やな。
射線上には狙撃できそうなポイントなんぞあらへんで。
あるいは、無線誘導の類か……?』
「ファンネルにビット、か……、フフ、ガンダムだな」
満足げに微笑を携え、およそガンダムらしからぬ大男が、ずしん、ずしんとビル街を闊歩する。
例え魔界大帝サイズに身を貶そうとも、この男は生まれついての帝王であった。
――と。
『アカン! 上やッ、シゲさん』
「――!」
視界の端で、不意に陽光が反射して煌めいた。
警告とほぼ同時に男は跳んでいた。
一拍遅れ、再び一条のビームが大地を焦がす。
「クリアファンネルやッ!
他にも何機か、近くに張っとる」
「キュベレイパピヨンか……、黴の生えた手管を」
ニヤリ、男の口端に笑みが張りつく。
同時に後方から新たな火箭が一筋伸びて、男の背後を脅かし始める。
『しんどいわ、敵さんもようやりよる!
こうも上から押さえ付けられちゃあ、烈風拳は届かへんで』
「うろたえるな。
向うとて、こちらを視認できているワケでは無い。
レーダー頼りの当てずっぽうの射撃など、そうそうに当たりはせん」
『アンタはもうチョイうろたえんかい!
このままじゃ手も足も出えへん、ジリ貧やぞ!?』
「このまま行く。
遮蔽物の無い所で勝負を仕掛ける」
短く言い捨て、男が直ちに行動に移った。
後方のファンネルを顧みもせず諸手を広げ、前傾をとって両足を踏み出す。
20メートル級のモビルスーツの疾走に、路盤が砕け、ズン、ズン、ズン、と大地が揺れる。
「――ムッ」
と、その時、不意に男の足が止まった。
開けた視界の先に突如として現れた、球形の大型ガスタンク。
それがグルリと、三機、四機、五機……。
足元にはズラリと区画化された工場群が立ち並び、男の行く手を阻む。
「石油コンビナート……、誘い込まれたか」
『罠や! シゲさん。
ちょいとでも引火すりゃあ、ここら一帯が丸ごとドカンや。
早いトコ抜けな……』
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