第四話「ハリケーンアッパーのジョーかっ!!」
大南流合気柔術の使い手、周防辰巳曰く。
「気で圧倒された相手と戦うのが最も容易い。
それは風上に立って相手を攻撃するにも等しい」
練り上げた気を、烈風のように疾風のように浴びせたならば、いずれ対手の気力を削ぎ、拳を交えずして勝利を収める事が出来る。
戦わずして勝つ。
一流を極めた達人たちが理想と目指す、武の究極である。
しかし、若き日の天才、ギース・ハワードの解釈は少し違う。
殺す者、服従させる者を己が意志で選びとれるのが、生まれついての支配者。
烈風拳とは、立ちはだかる者を屈伏させ、その魂まで蹂躙せしめる、帝王の拳なのである。
「レップウケーン!!」
そんな、天獅子風ギース・ハワード講座に想いを馳せつつ、俺は叫んだ。
たちまちプラスチックの肉体が連動し、天高く右手が吊り上がる。
ぶおん。
そして、虚しく空を切る。
飛び道具なんて、出るワケない。
すばらしい悪夢だ。
否、スバラシイ悪夢だァアォァァァ――――――――ッッ!!
うっかり幻十郎に引っ張られてしまった天サム破沙羅の断末魔が脳内に響き渡る。
これではまるでサイキョー流道場、ギース・ハワード(笑)である。
「な……、なぜだ? なぜ烈風拳が出ない?」
「いや、そりゃあ出るワケないやろ?」
呆然とする俺を尻目に、呆れたようにサカイくんが言った。
「そもそも飛び道具なんぞ出せるように機体を作っとらんやん。
叫ぶだけで必殺技がでるならジャリガキ最強やわ」
「そ、そう、なのか……?」
「しゃあない、ちょいとばかし座学と行こうかい?」
そう断って、サカイくんがシステムの強制終了にかかる。
徐々に冷めて行く熱気と共に、俺は諦観の吐息を吐き出した。
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十分後。
道場を離れた俺たちは、ちゃぶ台を囲んでTVモニターと向かい合っていた。
見つめる液晶の中では、切り立った荒野に並び立つ、二機のガンダムを映し出していた。
「第7回ガンプラバトル選手権、最終予選。
対戦カードはイオリ・セイ&レイジ組 対 リカルド・フェリーニ。
大会のハイライトにも使われた名シーンやな」
手短に説明を済ませながら、サカイくんがコマ送りをかける。
やがて、拳を両脇に備えたストライクベースの機体から、淡い輝きが徐々に零れ始めた。
「何だ? 骨格が光っているのか……?」
「イオリ選手が『RGシステム』と呼んでいた、スタービルドストライクの奥の手や。
クリアパーツに蓄えたプラフスキー粒子を、独自のフレームに伝搬・浸透させ、素体の強度を底上げしとるんや」
サカイくんの言葉を裏付けるように、両機が動いた。
否、躍動した、と表現した方が正しいかもしれない。
プラモデルの枠組みを超え、両雄が真っ向からぶつかり合っていた。
喰らいついて行く。
ベテラン、リカルド・フェリーニの人機一体の動きに対し、新人のアイディアと天性の素質が。
「この粒子変容っちゅうんは、えらい応用が効く発想でな。
一時的な機体強化だけに留まらへん。
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