いじっぱりな黄色い悪魔 ⑤
トキワの森に、リングマの叫びが轟く。
怒り冷め止まぬ憤怒の咆哮に大気は鳴動し、梢がざわざわと恐怖に怯えていた。
突如この森に住み始めた暴君の激昂に、ポケモンたちは我先にと逃げ出していく。
トキワの森のざわめきを肌に感じながら、レッドはラティアスに指示を出し、高度を下げた。
降り立った場所はピチューたちの住処となっている倒木だ。
ボロボロのピカチュウをラティアスの背中に移し、レッドはポーチから“げんきのかけら”を取り出した。ダウジングマシンにより拾うことのできた貴重なアイテムだが、惜しむことなくピカチュウの口内に転がした。
空洞の倒木に隠れていたピチューたちがボロボロのピカチュウに気づき、涙ながらに飛び出してくる。哀しい鳴き声をこぼしながらピカチュウに寄り添い、ぐずぐずと鼻をすすっている。
「大丈夫だ。こいつがそんな柔じゃないことはお前らが一番わかってるだろ?」
レッドが励ましの声をかけながらピチューたちの頭を撫でていく。
「ラティアス、“いやしのはどう”」
ラティアスの身体から波動が迸り、ピカチュウの身体を包み込む。献身的な波動はとても温かく、優しさと安らぎに満ちていた。“げんきのかけら”の効力と相俟って、傷だらけの身体が見る見るうちに回復していく。
その光景にピチューたちは驚き、喜んだ。
レッドもホッと胸を撫で下ろし、ラティアスに「ありがとうな」と感謝する。ラティアスはニッコリと笑う。
「リングマ……ね」
しかし安心するのはまだ早い。元凶は未だこの森にいるのだ。
空気を引き裂くような咆哮が遠くから木霊する。レッドは気を引き締めた。
「けど、なんであんな奴がトキワの森にいるんだよ。この森に元々生息していたわけじゃないんだろ?」
ピチューたちは全力でコクコクと頷きを返した。
「だよな。リングマはジョウト地方の生き物のはずだし……トレーナーから逃げ出したのか、トレーナーが逃がしたのか、そのどっちかのはずだけど」
ここより少し離れた場所に獰猛なポケモンが跳梁跋扈するシロガネ山がある。そこは激しい生存競争が常に繰り広げられている完全な弱肉強食の世界であり、その凄まじさは、シロガネ山を生き抜いたポケモン一体を放逐するだけで、その地域の生態系を完全に破壊し尽くすほどだと恐れられている。
己の腕に自信のあるエリートトレーナーがより強いポケモンを求め、こぞってシロガネ山に赴いた前例が過去に何件もあったが、五体満足に帰還できたトレーナーは一割にも満たなかった。そして、その希少すぎる有望な一割以下の数人は、シロガネ山で捕獲したポケモンを手懐けようとして、そのまま噛み殺されてしまった。
すべて実話である。
故にシロガネ山は四天王をはじめ、ポケモン協会が認めた超凄腕トレーナーたちが厳重に警備をしている。連絡網も徹底しており、些細な問題一つ発生するだけで五人以上の超凄腕トレーナーを召集するほどだ。
だから、シロガネ山から逃げ出したという線は非常に薄く、原因はトレーナーの無責任か、もしくは単にリングマを制する技量がなかったか、そのどちらかが濃厚だ。
(こういう問題があるからトレーナー資格を得られる年齢が引き上げられるんだよ)
レッドは舌打ちをする。
以前は十歳からトレーナー資格を得られるシステムだったが、トレーナーたちの数々の問題行動により年齢が十二歳に引き上げられたのだ。
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