ライバルと師匠と貧相なバス ③
「帰ってきてたんだな」
「ああ。昨日、マサラに帰郷したばかりだ」
数年振りに再会した幼馴染はかつてのやんちゃな面影はすっかり形を潜めていた。
翡翠の慧眼に、引き締まった顔立ちは、十年もしないうちに精悍と評されるだろう。しかし、今はまだ幼さの方が先に立っているため、グリーンの鋭気な雰囲気はどうしても小生意気な印象を感じてしまう。
レッドとグリーンは最寄のベンチに腰を降ろし、昔のように自然と、一人分の空白を空けていた。
「に、しても随分変わったんじゃねーの?」
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながらレッドはグリーンの顔を覗いた。
「前は俺と変わらないくらいやんちゃなガキだったのに、いつの間にそんなカッコつけになったんだ」
「うるさい。そういうお前こそ見るからに性格が悪くなったんじゃないのか?」
「おいおい、こんな聖人君子を捕まえて、なんて言い草だね」
「フン、お前が聖人君子なら世の中の九割が聖人君子だな」
「それ、俺がもうほとんど犯罪者だと言ってるようなもんじゃねーか」
カキカキ。
『ちがうの?』
「おーっと、このガキ。そもそも道を踏み外す第一歩を踏ませたのは貴様だろうが」
アッハッハーと笑いながら、みょいーんみょいーんとラティアスの瑞々しい肌を引っ張る。
ラティアスと出会わなければレッドが前世の記憶を取り戻すことはなかった。もちろんラティアスと出会ったことを後悔なんてしているわけじゃない。
「人間に化けるポケモンか。まさかメタモンの他にもそんなポケモンがいるとはな」
やはりポケモンは奥が深い、と神妙な顔でグリーンは続けた。
ラティアスが元の姿から人間の姿に化けたとき、グリーンは「なッ」と驚愕に目を剥いていた。既に多くの人間が同じ反応を見せていたので、あまり目新しさはなかったが、クールを気取っている奴の化けの皮を剥がすのは中々に痛快である。
「知らないのも無理はないって。こいつはアルトマーレの御伽噺に出てくる伝説のポケモンだしな」
みょいーん、みょいーん。
「……その割には雑な扱いだな」
「愛情と言っていただこう」
中々クセになりそうな柔らかい頬を解放する。ラティアスは自分の頬をすりすりと撫でる。
「しかし、よく伝説のポケモンなんかと出会うことができたな」
そこには少しの羨望が含まれていた。
伝説のポケモンというのは、運命に導かれた一握りの存在にしか姿を見せないと言い伝えられている誇り高い生き物だ。彼らに見初められたトレーナーは即ち伝説から選ばれた存在という証でもあり、トレーナーとしての箔がつく。それだけでも羨望の的になるには立派な理由だというのに、この男はあろうことか手持ちに加えているのだ。嫉妬しないトレーナーなどこの世にはいまい。
そしてもう一匹は6Vだろうぶっ飛びピカチュウ。
この男、主人公補正を遺憾なく発揮していた。
レッドはラティアスの頭を優しく撫でながら、彼女と出会った経緯を話すことにした。
悪いトレーナーに狙われ、傷だらけで倒れていたラティアス。
当初の彼女は人間に強い警戒心を抱いており、レッドを攻撃することもあった。
だけど何とか手を伸ばし、信頼を勝ち取り、穏やかな日常を一緒に過ごした。
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