ハーメルン
インフィニット・ストラトス Re:Dead《完結》
炎の壁
当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、僕とシャルロットは初めて同じベッドで寝た。
小学生の頃、シャルロットはよくセリーヌさんと一緒に寝ていたらしく、朝に彼女の部屋から出てくる時があった。
今夜一緒に寝ようと言ったのも、それを思い出しての事かもしれない。
「…………」
隣を見ると、シャルロットは寝息を立てて眠りについている。
セリーヌさんが倒れてから精神的負担が大きかったのだろう。夜も碌に寝られなかったに違いない。今更そのことに気付き、自分に対して舌打ちをする。どうにも、僕は見落としをしてしまうようだ。
「…………」
成長していくに連れて、シャルロットはセリーヌさんに似てきた。あの強面のデュノア社長に似てなくて良かったと思う。
可愛らしい顔立ちになり、髪も伸びた。頭も良いし、世話好きでもある。もう既に周りの男の子が放って置かないんじゃないかと、親心のように若干複雑な気持ちだ。
「……天使、か」
出会った時に自分が呟いた言葉を思い出す。
本来は天国へ、つまりはあの世へ運んでいく役割だろうに。僕は彼女に会ったことで生き永らえた。
「……………」
僕は記憶を思い出すべきだろうか。
膨大な知識の果てに、何か、とんでもないものがあるのではないか。
心の何処かで感じている。
『思い出してはいけない』
それは懇願のようで、呪いのようで、贖罪のような。
そんな朧気な小さな棘。
だからと言って、事故で都合良く記憶を消せるわけもない。意図的に記憶喪失になることなど出来はしないだろう。
「…………」
……本当に?
本当に出来ないことか?
この世の知識を、まだ見つかっていない理論を組み立てても、偶然を積み重ねても、本当に出来ないことか?
僕は僕に対して、意図的に記憶を消した可能性を否定し切れない。
「…………」
仰向けになり天井を見る。
目を瞑り、記憶の底に潜り込む。
探って、迷い、沈み込み。
深く深く深く。
深淵の中にまで行こうとして
炎が邪魔をした。
「……っ!」
全身を焼かれるような錯覚。
炎が僕を包む。
僕だけではなく、部屋も、シャルロットまでも包み込んでいく。
喉をかきむしりたい欲求。
呼吸が出来ない。
空気が足りない。
苦しくて、逃げられない。
今すぐにでも水の中へ入り、幻惑の炎を消し去りたい。
やめろ、やめてくれ。
手を出すな……!
「…………っ」
ぐわりと目が回る。治らない。視界が回る。脳が回る。世界が回る。
紛れて、混沌になり、もう戻って来れない深みが、そこに。
ヤバイ、と一つ残った思考が、それだけに意識を回し、手を振り上げて自分を思い切り殴った。
瞬間、全てが吹き飛び、痛みだけが支配する。
何処を殴ったのかさえ自覚は無かったが、左目の側が痛いことから、火傷の跡辺りを殴りつけたのだと判断した。
探ろうとした記憶の欠片は、全て霧散して消えた。
汗だらけになった僕は、体の熱も相まってシャワーを求めた。
今すぐ取り払いたい。
冷水を頭からぶっ掛けたい。いやいっそのこと、湯船に水を張って突っ込もうか。それが良い、そうしよう。
フラフラとした足取りで風呂場へと向かい、パジャマを脱ぐ。裸になっても熱が抜けない。焼けるように熱い。
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