第2話
俺は嘗て、20世紀の日本で生まれ育ったごく普通の一般男児だった。
家はそこそこ裕福だったので割と不自由なく暮らせてたし、両親は厳しいところもあったが人格者だったと思う。
学校でそれなりに友人に恵まれ、文武共にそれなりに頑張って、それなりの結果を残しつつ、それなりに満足の行く少年期を過ごした。それなりにレベルの高い中学、高校を出たらそれなりの大学に入学し、それなりの成績を出しつつそれなりに楽しい学生ライフを送っていたと思う。
これだけ言うと俺が物事に対してやる気があるのか無いのか分からなくなるだろうが、こう見えて何事も大真面目に取り組んでいたつもりである。ただ何をしても全ての結果が“それなり”止まりになるのだ。勉強もスポーツも遊びも趣味も何もかも、平均値より若干上かどうかの結果が残る。
これについては単純に資質の問題だと自己分析した。多分俺は大抵のことをそつなくこなせるんだが、どうしても一つのことを極めることが出来ない人種らしい。決して非才凡才にならないだけかなり恵まれているのだろうが、心の奥底で自分が中途半端で熱意の無い人間に思えて自己嫌悪することもあった。
そんなこんなで、真面目に頑張ってそれなりに上手くやって気が付けば大学三年後半、就職活動が本格的に始まる時期に差し掛かっていた。どんな仕事に就いてもそれなりにやってけるという自身はあった。あったのだが、特別『この職に就きたい』という意欲がどうにもわかない。
大抵のことは真面目に取り組んで、それでもそれなりの結果しか残せなくて、何処か満たされない結果だけを噛み締めながら生きてきた俺には、明確に定めた自分の道筋というものが出来ていなかった。
言ってしまえば優柔不断になっていたのだろう。何でも出来る俺は、自分でも気づかぬうちに『アレでもいい』『コレでもいい』という風に、明確に何かを為したいと思う気持ちを喪失してしまっていた。
それを自覚してからは多分今までの人生で一番悩んだと思う。
どうすれば明確な目標が見つけられるのか、或いは明確な目標など無くとも今まで通りそれなりの仕事をそれなりにこなして行く人生を送るべきなのか。心にかかった靄の晴れぬまま、気が付けば大晦日。新年を家族と共に祝うべく高速バスに乗って実家へ向かう途中で事は起きた。
一言で言い表すなら、俺は死んじまった。実家へと向かう途中の高速道路の上でスプラッタな姿を晒して死んだのだ。
覚えている限りでは交通事故だったと思う。トラックか何かのクラクションと衝撃、続いて熱、そして世界が激しく回転する感覚と、罅割れた窓ガラスを突き破って外に放り出される浮遊感。
最後に見た光景は高速道路のど真ん中で横転しているデカいトラックと、俺が先程まで載っていたバスの成れの果て、そして無残にも体から泣き別れした自分の右腕、そして引き裂かれた腹から溢れ出た中身だった。
自分でも不気味なほど冷静に何が起きたのかを即座に分析し、もうじき死ぬことを自覚した辺りで意識は闇に呑まれた。後は天国なり地獄なり行くところに行ったりするのかと思うんだが、生憎と俺の行き先はそのどちらでもなかった。
初めは訳が分からなかった。突然事故に遭い、腕が千切れて腹が裂けて中身が溢れだしたR-18Gな死体になってくたばったかと思えば、いつの間にか子供の身体になっていたなんて想像できるか?
見た目は子供で頭脳は大人…というか高校生な探偵の如く、気が付けば身体が縮んでいたとかチャチなもんじゃない。自分の身体が自分の知る身体でなくなっていたのだ。焦げ茶だった瞳は空色に、黄色系の人種からは考えられない真っ白なお肌に大変身、何という事でしょう。
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