11.涙を流す時は、上を向いてからにした方が良い。
そう言ってクリードさんは柔らかく微笑んだ。見る見るうちに私の顔が紅くなっていくのが分かる。
「……最後にもう一つ、これは余計なお世話かもしれませんが。 お父さんとお母さんは、決してキョウコさんを見捨てていませんでしたよ?」
訝しがる私を見て、栗井さんが鞄の中から一枚の紙を差し出した。
「キリサキさんの御両親は立派に守りましたよ。 自分達の命よりも、患者の命よりも、何よりも貴女を優先して守ったんです」
「守った…? 私を?」
それでは、答えが決まったら教えて下さいね。それまでは此処に居てもらって結構ですから。
そう言ってクリードさんはホテルの部屋を出て行った。
私の人生の中で、恐らく最も慌ただしい一日が終わろうとしている。
…それにしても今日は疲れた。気だるさに身を任せてさっさと寝てしまおうかと思ったが、流石にまだ早すぎるのでテラスへ出てみる事にした。
...決してセンチメンタルな気分になった訳では無い。
一応部屋の周囲は警戒してくれているらしいが、念の為に外へは出ない様にとのお達しが出ていた。 …まあテラスならセーフだと思う。
遠くの方に街の灯りが見えた。多分私が住んで居る町だろう。
―――覚悟を決めろ、私。
意を決して紙を覗き込む。そこに書かれた文字はインクが掠れて滲んでいるのか、とても読みづらかった。
「ところで師匠、結局何故わざわざジャポンに来られたので?」
「そんなものは決まっています。 クリード君が真面目に教師をやっているのを笑い…じゃない、観察…ではなくて、ええと…そう、見学…じゃない、見守りに来ただけの事ですよ」
「そんな理由でわざわざ来ますかね、普通。 しかも昨日はケーキの食べ放題に半日以上居たらしいですね、リンの手を借りて変装してまでしぶとく居座って...」
「うっ! …だって、制限時間が一時間半しか無いんですもの、それだけの時間では到底全種類食べきれません、だからしょうが無かったんです!」
(うわあ、何言ってんだこの人…)
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