12.自己紹介は大切です。
ヒソカの隣、全身に針を突き刺した不気味な男は何も言わずただ黙している。
「…恐らくそうだろう。 現に他の参加者が付けているプレート番号はかなり若い物だ」
答えたのは二人と共にエレベーターから現れた銀髪の男。
彼は二言三言ヒソカと会話した後、係員からプレートを受け取るとその場を離れた。そして近くの岩場に座り、徐にタスキ掛けにしていた鞄から本を取り出して我関せずとばかりに読み始める。
地下会場は重苦しい沈黙で満ちていた。
誰もが目を伏せ、早く試験が始まる様に祈っている。その中で時折漏れ聞こえて来るのは、やはり先程の異様な組み合わせの三人組についてだった。
そんな中で一人、意を決した様に小太りの男が銀髪の男に近づいて行く。
男の名はトンパ。 彼は受験生が脱落する瞬間の表情を見たいが為に、死を伴う可能性が有るハンター試験に十数回以上参加しているという筋金入りの変人だった。
ヒソカと針男と銀髪の優男。
この三人の中で誰かを選ばなければならないとするなら、やはり銀髪の男だろう。 そう考えたトンパはお手製の下剤入りジュースを手に男の前に立った。
「よう兄ちゃん、災難だったな」
その声を聞いて、男は読んでいた本からゆっくりと顔を上げる。そしてトンパを真正面から見た。
(な、何だよこいつのこの眼。 まるで俺の事をそこらの犬畜生か何かみたいに…!)
今、この優男の中で自分の価値が値踏みされている。 ぞわり、と全身の産毛が逆立つ様な怖気に襲われながらトンパはそう直感した。
同じ人間を見る眼では無い、この優男は自分の事を精々が使い捨ての道具程度にしか考えていないのだ。 そう思わせるのに十分な冷酷な瞳をしていた。
それでも動揺を顔に出さずに話しかける事が出来たのは、それなりに場数と修羅場を潜って来た経験と自負からか。
「ああ、言い忘れてた。 俺はトンパって名だ。 まあ一応ベテランだからな、分からない事が有ったら何でも聞いてくれや。 アンタは?」
「…クリードだ。 親切にどうも有難う。 だが僕には必要ない、他を当たってくれ」
それだけ言うと男はトンパから興味を無くしたのか、再び本へ眼を落とした。
(この新人、人が親切に教えてやろうってのにスカしやがって~~! …ちぃっ、このままじゃあ、新人をからかいに行ってビビらされて帰って来ただけで終わっちまう!)
「~~っと、いけねえ、忘れてたぜ。 これ、やるよ。 お近づきの印に受け取ってくれや」
精一杯の笑みを浮かべ、ダメ元でお手製の缶ジュースを差し出す。
次の瞬間だった。 首筋に熱さを感じ、次いで手にしていた缶が中程からすっぱりと二つに断ち切られて地面に転がり落ちたのは。
反射的に首筋に触れ、手を開く。 掌はべったりと血で染まっていた。
「…危なかったな。 トンパさん、だったかな? 折角拾った命だ、大事にすると良い」
「ひ、ひいぃぃぃぃい!!」
痛みと恐怖にショートしかけた脳みそを何とか奮い立たせ、トンパは這いずる様に逃げ出した。
(何をされたか分からねえが、このままあの優男の前に居たら確実に殺される!!)
「…失敗したか」
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