14.大人だって、切れる事はある。
『グギャギャギャ! ギーヒヒヒヒヒ…!!』
「それがキミの能力かい? 随分と良い趣味をしているね♡」
込み上げる愉悦を隠す素振りも見せず、ねっとりとした情欲をクリードにぶつけるヒソカ。しかしクリードはその期待に答えようとはしない。
相対した時から彼が見ていたのはヒソカの足元。
そこで血だまりに倒れ伏した、制服を着た少女。
――見間違えようも無く、キリサキ・キョウコだった。
視線に気付いたヒソカが安い挑発の言葉を投げ掛ける。
「ああ、彼女かい? …安心しなよ、ちょっと味見しただけさ。 折角【使える】のに何時まで経っても使ってくれないからさ、ついムキになっちゃった♡」
次の瞬間だった。
全く唐突に、ヒソカは左足――太腿の辺りから久しく味わっていなかった熱を感じた。
何事かと見れば、左足の中程の皮膚が楕円形に裂け、体内に有る筈の白い骨が覗いている。
瞬く間に血がぶくぶくと音を立てて吹き上がり、痛覚が得も知れぬ快感を伴いながら脳内を駆け巡る。
視線を前方に向けると、クリードの持つ異質な剣の先端、人で例えるならば口に当たるであろう部位から薄ピンク色の物体が覗いているのが見えた。
その物体から滴り落ちている雫を見て、察した。
―――察して、絶頂した。
「素晴らしい、ボクが齧られ終わるまで全く気付けないスピードだなんて、最高じゃないか…♡」
「黙れ…! 大人しく脾臓を抉られていれば良かった物を」
感情を吐き捨てる様に呟いたクリード。
その背中には今の短いやり取りの一体何所で抱えたのか、ヒソカの側で倒れていた筈のキョウコが居た。
一人は抑える心算の無い歓喜を露わにし、もう一人は抑えられない不快感を珍しく表情と言葉に出して。
じりじりと睨みあう奇術師とクリード。
その一方で目まぐるしく変化する状況に全く着いて行けない、一般人以上、能力者以下である二人。 蚊帳の外の彼等は未だ混乱の極致に居た。
現在の状況を二人の視点から説明するならば、《会話の途中、何時の間にかヒソカの太腿がごっそりと抉られており、何時の間にかクリードの剣が恐らく抉られた肉片の一部であろう部分を咥えていた》としか表現のしようが無かった。 序に、何時の間にか倒れていた筈のキョウコもクリードが背に乗せている。
(おいおい、何だよあの不気味な剣は…。 まるで【あの剣】自体が生きていて意思を持っているみてぇだ…!)
九死に一生、または起死回生。
不幸にもこの虐殺現場に居合わせた自分が、志半ばでの死を覚悟した瞬間に現れた救いの神。 救世主。 ――そう思えたのはほんの一瞬だけ。
レオリオには、あの形容のし難い不気味な剣を携えているクリードとヒソカ。 そのどちらも同じく悪魔か、それに準ずる者にしか見えなかった。
絶句、そして硬直。 クラピカにはこの状況で取れる行動がそれ以外に無かった。
クリードが持っている歪な剣。
それは今までにクラピカが見て来たどんな人間よりも『ヒト』らしく、今までに出会って来たどんな人間よりも醜悪に嗤っていた。
その双眸から紅い雫をぽたぽたと零しながら、それでもげたげた、げらげらとさも愉快そうに笑っている。
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