ハーメルン
沈黙は金では無い。 
29.ありとあらゆるものを憎む程度の能力/ありとあらゆる物事を楽しむ程度の能力


「ぶわっはははは、ギャハハハハ!! ヒィ、ヒィ…!! …ッ…、クフッ、ぷっ…駄目じゃ、耐えられんッ!! ギャッハハハハ!!」

「ちょっと会長、幾ら何でも笑い過ぎですよ!」

 ハンター協会が所有する某ホテル、その最上階にて。
 自他共に認める最強のハンター、会長ネテロ・アイザックは腹を抱え、涎を撒き散らし、床をのたうち回りながら笑っていた。笑い転げ続けていた。

 事の始まりは四次試験を見事通過した者達のリスト、及び試験中の死亡者、脱落者の報告まで遡る。 
 受験生に随伴していた黒服達により、色々な意味で今回の試験の注目株扱いされていた46番:クリード・ディスケンスが四次試験にて脱落したとの報を受けた直後だった。タガが外れた様に彼が笑い始めたのは。
 彼の奇行や突飛な行動は今に始まった事では無いので、何時もの事だと最初は放置していた黒服達だったが、笑い始めてから五分が過ぎ、十分が経過しようとも一向に笑い声が収束する気配は無く。かと言って、自ら進んで会長に苦言を呈する事の出来る剛の者が居る訳でも無く。
 顔を見合わせて狼狽えるばかりの彼等を見かねた専属秘書官のマーメンが諫めに入るが、それも何処吹く風とばかりにネテロの笑い声は高まるばかりだった。

「ひー、ひー、あー…。 えっらい久々に死を覚悟したわ。 これ、その昔にゾルディックのジジイと当主の若造とガチ喧嘩した時以来じゃの。 はー、苦しかったわい…」

「全くもう、御歳を考えて下さいよ会長。 それに、彼だって落ちたくて落ちた訳じゃ無いでしょうに。 流石に失礼過ぎます」

「うっさいわ、歳の事は言うんじゃねえよマーメン。 いやー、じゃって46番じゃぞ? 空きが出来たら十二支んに入れる事も考えておったと云うのに。 まさか、あれ程の手練れが落ちるとはのう。 …マーメン、そんなに四次試験は難しかったかの?」

「…いいえ。 一週間という長丁場、加えて受験生同士の戦闘や駆け引きを強いる等、それなりの難易度では有ります。 が、此処までの試験を通過して来た一定レベルの使い手ならば難なく突破出来る筈ですね。 現に、今回五次試験に進んだ九人の内、六人が非念能力者です」

 【念】が使えるか否か。 
 風に揺らめく蝋燭の炎よりも容易く人命が吹き飛ぶこの世界に於いて、この差は絶対に等しい程に大きい。 
 こと戦闘に関して云えば、使い手で無い者が使い手に勝利するというのは極めて稀な出来事であり、双方の間に余程の技量差、力量差が無ければまず有り得る事は無いと言えるだろう。

「ふーむ。 まあそうじゃろうのう。 【念】無しでぜ~んぜん本気では無かったせよ、ワシと正面からタイマン張って一撃喰らわせる程の腕前を持っておったからの、アイツ。 
ホント、な~んで落っこちたんだか…」

 何気なく放たれたネテロの軽口を受け、俄かに騒めく室内。 
 彼が会長に就任してから既に幾十年。年月を経て全盛期よりは確実に衰えたとはいえ、未だハンター最強との呼び声高いネテロ・アイザック。
 詰まる所、クリード・ディスケンスは現役ハンターを見渡しても見劣りする所か、最上位に近い実力をあの年で既に備えているという事実。
 これが第三者、もしくはクリードから発された言葉ならば対して面白くも無い戯言だと一笑に付して終わりなのだろうが、“一撃を喰らった” そう発したのが当のネテロだという事実。それが真実味を増す原因になっていた。

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