4.人の心何て、分からない方が良い
携帯の画面から顔を動かすことが出来ない。勝手に歯が震え、背筋を冷たい物が伝う。
一瞬見えたクリードの眼。
―――あれは人が人を見る眼では無い。 例えるならば餌を――蜘蛛を見つけた鳥のそれだ。
食べられるか食べられないか、値踏みされている。 余計な事をするな、お前の価値はその程度だ、とシャルナークを見るクリードの視線は物語っていた。
幻影旅団の一員としての誇り、強者としての矜持がシャルナークを辛うじてその場に踏みとどまらせる。荒くなる息を強靭な意志で押し殺しつつ、外の二人へメールを手早く打った。
『大丈夫だから入って来るな』と。
送信ボタンを押すと同時に圧し掛かっていた重圧は嘘の様に霧散した。助けを求める訳では無いが視線のやり場に困り、再度クロロを見る。
団長はキラキラしていた。差し出された本に大層ご満悦だった。
まるでずっと欲しかった玩具を買ってもらった子供の様だな、とシャルナークは言い知れない疲労感を覚えながらぼんやり考えた。
「…確かに、これは本物だ。 間違いない」
「あははは、天下の大盗賊、幻影旅団に偽物を掴ませようだなんて恐れ多い事は出来ないよ」
そうこうしている内に二人は良く分からない古書の話で盛り上がり始めた。 シャルナークは胸の内でもう一度盛大に溜息を吐いた。
―――自分の家でやれよ、もう。
旅団員の九番、パクノダは俗に云うサイコメトラーである。 正確に称するなら、世間的に秘匿とされている念能力者であり、さらにその中でも希少な特質系に分類される。
彼女の能力は幻影旅団の中でも特に重要視されていた。替えの利く戦闘員と違い、パクノダの能力は唯一無二、オンリーワンだから。
対象の人間に触れながら質問をする。
能力を使う条件はそれだけ。故に誤魔化しは利かない。頭の中で考えた事、記憶を偽る事はどんな人間にでも不可能だからだ。
彼女は自分のボスであるクロロ・ルシルフルに心酔していた。
彼女がクロロと同じ流星街の生まれで、団員の中でも一際に付き合いが長いという事も有ったが、それ以上に彼女はクロロの作った幻影旅団という組織が好きだった。
蜘蛛の手足となって働き、必要が有れば頭の身代わりとなり死んで行く事。彼女も、他の団員もそれに疑問を持つ事は無い。
そして今、パクノダはクロロの命令を受けて警戒態勢に入っていた。 ブランド物のスーツに身を包んだその姿は外資系のOLと例えれば想像がし易い。
カフェの入り口で一般客の体を装って待ち構える事数十分程。 事前の情報通り、銀髪の男が現れた。
内心で男の度胸に驚嘆する。
まさか本当にたった一人でやって来るとは。 周囲の気配をそれとなく探るが、奴の仲間らしき気配は感じ取れない。クロロの方へ向かっていく後姿をそれと無く見やる。
―――強い。 男の錬度が一目で理解出来た。
悟られない様細心の注意を払い、クロロの出方を見る。 二言三言交わした後、クロロの気配が変わった。 文字通り、殺気が破裂するかの如く一気に膨れ上がっていく。
団長は仕掛ける気だ、ならば私は後方から援護を―――。
そう思い、懐の銃を取り出そうとスーツの中に手を入れた瞬間、背筋が凍りついた。
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