第16話「決戦前夜・前編」
注射、薬物。瞬間的に、その2つの単語が浮かぶ。
「皇族の身体で楽しむつもりだったのに、その時間すら稼げないんだからな。父親に似て無能だ」
「あぎ、がが、ぎ・・・」
「まぁ、良いか。皇帝と皇女2人を殺した犯人、つまりあんたの首を差し出せば、俺は帝国の英雄になれる。そうすりゃ、あの第3皇女に近付けるかもしれん・・・」
私の口はもう、まともな言葉を紡ぐことができなくなっていた。
だが、思考はかろうじて生きている。
だからわかる、私は、謀られたのか。けど、何故? ・・・どうして!
憤怒、絶望、敗北感、憎悪――――それらがない交ぜになった感情が、私の胸に去来した。
だがそれを表現する術を、私は持てなかった。
何故なら、2本目の注射が、私の首に突き立てられていたから・・・。
「ああ、そうそう。あんたの親父を殺したのはな・・・」
私の意識が落ちるのと、ほぼ同時に。
男の声が途切れた、部屋の壁を突き破る轟音と共に。
「お話し中失礼~、雇われ剣士のジャック・ラカン様登場~って、あ~ん?」
続けて聞こえた声は、初めて聞く種類の物だった。
「・・・お前、悪党だな?」
Side テオドラ
短い時間ではあるが、父に会うことができた。
娘としてではなく、帝位を継ぐ者の礼儀として。
じゃから、形式以上のことを言わなかったし、しなかった。
縋りついて泣くことも、できなかった。
公人としてのヘラスの皇族は、弱みを見せてはならない。
必要なのは強さであり、それ以外の物は必要無い。
「・・・ご苦労じゃったの、ジャック」
『まぁー、仕事だしな』
慌ただしく戴冠の準備を進める官僚達を横目に、妾はジャックと連絡を取った。
別に私用では無く、姉上達を救ってくれたのがジャックだったからじゃ。
2人の姉は、薬を打たれて昏睡状態じゃった。
今も、眠っておる。
医師によれば、処置が早かったために一命を取り留めたと言う。
処置をしたのは、もちろんジャックじゃ。
「よもや、お主に医療の心得があろうとはの」
『俺に不可能はねぇ』
「バグめ・・・」
苦笑するしか無い。
ほとんど一人でクーデター部隊を制圧した上、首謀者まで捕らえた男。
これでは、何のために部隊編成に一日割いたのかわからん。
『んで、あのお嬢ちゃんはどーすんだ?』
「お嬢ちゃん・・・リィ・ニェ准将か? あ奴は一応40代じゃぞ」
『マジか、まぁヘラス族だしな。で、どうすんだよ?』
「叛逆は、基本的に極刑じゃがな・・・」
十中八九極刑じゃが、かなり後味が悪いことは確かじゃ。
調べによれば、父の死には関与していないらしい。
とは言え、間接的に責任はあるが・・・。
連合との捕虜交換で戻ってきた参謀の一人が、「父親の遺言」が書かれた手紙をリィ・ニェ准将に持ってきた。
そこには今の体制への恨みと、仇討ちを懇願する内容が書かれていたと言う。
実際には遺言は偽物で、その参謀が父を殺した男だと言うのにじゃ。
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