ハーメルン
魔法世界興国物語~白き髪のアリア~
第2話「無理な物は無理」

Side アリア

「う~ん・・・」


私は、アリアドネーで自分にあてがわれた部屋の中で、頭を捻っておりました。
臨時講師と言えど、授業を持つ身。やることはたくさんあるのですが。
しかし今私が困っているのは、それとは別のことです。


魔法世界を崩壊から救うには、どうすれば良いか。


私は現在、それについて考えています。
千鶴さんに借りた火星儀を指先でクルクルと回しながら、頭を悩ませます。


「・・・魔法世界が崩壊する、原因は魔力の枯渇・・・」


それは、私の前世の「知識」から引き揚げた事実です。
クルトおじ様も、それらしきことを言っていましたしね。


「・・・しかし、にわかには信じられん話だな」


隣で難しそうな魔法書や論文をパラパラとめくりながら、エヴァさんが言いました。
『人造異界の存在限界・崩壊の不可避性について』(1908年)、『魔法理論における空間認識と生成の関連比較』(1921年)、『魔素・魔力の源泉と諸地域の地形について』(1924年)、『亜人種の祖先の正体見聞』(1930年)・・・。


「私もそれ程この魔法世界に詳しいわけでは無いが、本当に崩壊するのか? 現状ではとてもそうは見えんぞ。いや、別にお前を疑うわけでは無いが・・・」
「実は私も、それ程自信があるわけでは無いんです・・・知っている、と言うだけで」
「まぁ、魔力の枯渇など、見ただけではわからんからな。それなりの施設で長期間観測しなければ、論理的な根拠のある仮定は作り得ない」
「・・・ですよねぇ・・・」


私は確かに、前世の記憶から魔法世界の崩壊の可能性を「知って」いるのですが。
かといって、いつ、何故、どうやって崩壊するのかを「理解して」はいないのです。
知ると言うことと、理解すると言うことは、似ているようでまったく別の物ですから。
理解しなければ、対処法の構築もできない。


私はスタン爺様達の『永久石化』に関しては、知っているだけでなく理解もしています。
だからこそ解除の目処も立ち、その公式も算出できたわけです。
そしてもちろん、それも私一人の功績ではありませんが・・・。


「・・・この問題は、個人レベルではどうにもできそうに無いですよねぇ・・・」


実際、私がいくら頑張った所で、どうにもなりません。
エヴァさんの力を借りても、限界はやはりあります。
エヴァさん自身も言ったように、大規模で整備された施設を有する公的機関の力を借りなければ、「魔法世界が遠からず崩壊する」と言う事象それ自体を証明することもできないのです。


解答不能・・・とまでは言いませんが、何年時間をかけても無理です。
これは能力の問題では無くて、規模の問題です。
世界規模の問題を個人で解決できると思う程、私も思い上がってはいません。
・・・もし、何かしかの解答を有している存在が、あるとすれば。


脳裏に、白い髪の誰かが浮かびました。
・・・。
カチャ・・・左腕のブレスレットを、無意識に指先で撫でました。


今頃、どこで何をしているのでしょうね・・・。




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