ハーメルン
一人のカタナ使い
第14話 鉱石を求めて

「こ、子ども……っ!?」
 僕の言葉に、目の前の少年――男の子といった方が表現が正しいかもしれない――は、露骨にムスッとした顔をしたあと、迫ってきていたゴブリンを持っていた短剣で斬りつけた。
「子どもだからってバカにするなっ! おれだってちゃんと戦えるんだぞ!」
 確かに、こんなところに潜っている時点で戦えるんだろうが、ここは危ない。出現数が他の場所と桁違いだ。レベル上げにはもってこいだろうが、危険すぎる。
「別にバカにしてないよ! と、とにかく、まずはこれを何とかしないと!」
 範囲の広いソードスキルを使いながら、叫ぶように応えた。囲んでいたコボルドのHPゲージが六割以上も削れる。
 本当なら全範囲に攻撃できるソードスキルを使いたいが、となりにいる男の子まで巻き込んでしまう。使えても前方に広範囲、もしくは単体が対象のソードスキルだ。あとは威力は劣るが、軌道が自由な通常攻撃で頑張るしかない。
 コボルドやゴブリンの大群をざっと見渡す。僕がつれてきて合流させてしまった数も含めて、明らかに四十はいる。バグ、もしくは運営の調節ミスじゃないかってぐらいの数である。
 唐突に第一層の《森の秘薬》というクエストを受けたときを思い出す。あのときもこんな状況だった。……カイとコウと一緒に頑張って全滅させたっけ。
「なに笑ってるの?」
 となりからそんな言葉が飛んでくる。男の子は短剣をゴブリンに突き刺し、ガラスが割れたような破裂音を鳴らさせた。僕も曲刀を横に薙ぐ。それだけで、数体のモンスターは霧散していく。
「いや、ちょっと思いだし笑いしただけ!」
 コボルドの攻撃を避け、カウンターとして胴体を斬りつけた。そして、口許に手をやる。……マジか、知らない間に笑ってたのか。我ながらひいちゃうなー。昔のことを思い出していたからなのか、それとも――。
 ――それとも、この状況に高揚しているのか。
 今朝も最前線の迷宮区に数日籠ってレベリング、武器の熟練度の上昇を行っていた。やり方は単体、もしくは数体を標的としてモンスターを倒していく、というものだ。安全性を第一とした方法、危険から一番遠のいた方法だ。
 そして、長い間繰り返し行っていると、感覚が麻痺してくる。どれだけ危険が遠いからといって、危険がゼロになるわけじゃないと頭では理解していても意識が低くなる。ルーチンワークになり、無意識に気が抜けてしまうのだ。
 だけど、今の状況は違う。
 不特定多数のモンスターに囲まれ、ひとつのミスが許されない。下手をすると自分もさっき倒したモンスターのようになるかもしれない可能性を大きく孕んでいる。最近感じたことのなかった緊張が全身を包んでいく。そして、体の奥から燃えるような感覚があとから駆け抜けていった。
 ――これじゃあ、僕もカイと大して変わんないな……。
 この世界に来て、すっかり戦闘抂みたいになってしまった幼馴染みと同類になってしまっていることに少し絶望感を抱くと同時に内心失笑する。
 武器を強く握りしめ、今度は自覚ありで笑ったあと、モンスターの大群に突っ込んでいった。

 体感的にはそうでもなかったが、実際の時間だと一時間ほど。それぐらい時間が経つ頃に、ようやく全滅させることができた。
 レベルにも余裕があり、攻撃パターンがわかってたとはいっても数が数……乱戦の連戦で、僕のHPゲージは半分とはいかなくても、七割を少し下回るぐらいまで減っていた。さすがに膝に手を置くぐらいには疲れた。息を整えようとするが、なかなか整えきれない。

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