ハーメルン
世界樹の迷宮 光求めし者達
十五話.第四次地下大戦

 気持ちが落ち着いたジャンベは、宿に居たロディムに相談してみた。
 自由行動が与えられた今、ロディムは一人、食堂の卓で物も頼まずテーブルを一人で占拠して、宿にとってはいい迷惑であった。
 ジャンベは少し腹が空いたので、パンと水二杯分を頼んだ。パンと水が入った飾り気のない長方形の土器二つが二人の座るテーブルに置かれた。ジャンベはロディムの真向かいに座り、相談があると明かした。

「お前が俺に相談とは珍しいな。言いたいことはわかるけどな。モリビトとの戦いについてだろう?」
「はい、お察しのとおりです」
「先に俺自身の答えをいやぁ、躊躇いはない。俺はゲンさんやエドワードのように、難しい事情を抱えているわけじゃねえ。俺がここへ来たのは単純に金と冒険による刺激を求めてのことだしな。モリビトがどうのと言われようと、道を邪魔しないのなら戦わない。道を邪魔するというんなら、容赦しない。俺が言えるのはそんだけだ」

 ロディムのこの竹を割ったような判りやすい性格にはある意味脱帽した。ロディムは自分のすべきことを理解している。そこに迷いはない。
 いつぞや、コルトンはこう言っていた。もし、ロディムが兵士として然るべき訓練を受けていれば、負け続きの戦場が嫌で傭兵を辞めた中途半端で臆病な自分より、ずっと優秀な兵士になっていただろうと言っていた。今なら、コルトンのその言葉にも納得がゆく。
 ロディムは土器の水を口にした。
 ジャンベは何となく、ロディムの顔や体をじっと見てみた。体はごつく、腕や手甲には所々古傷がみられる。髪を掻き分けないと見えないが、右頭頂部には森の破壊者に傷つけられた傷痕が今もある。エドワードやコルトンも、風呂に入ると体のあちこちに傷痕があるのがわかる。ジャンベには足の腿などに、僅かに痕があるぐらいだ。傷跡の多さで立派だとは言わない。これほどの傷を負いながら、心が折れず、今もこうして元気でいられるというのは尊敬に値する。
 人間相手ではないが、皆歴戦の勇士といっても差し支えない。ロディムに何だよと問われる前に、ジャンベは目で追うのを止めた。
 ジャンベの気持ちを知ってか知らずか、ロディムがわざとらしく笑った。

「ははは! ジャンベよぅ、お前がここに来たのも俺と似たようなもんだろ。人間と似た相手と戦うのが怖いというのか? そんなら、てめえが今まで仕留めてきた怪物たちは、人間ぽくない姿をしているから、殺しても良いというのか?」
「……僕が言いたいのはそうじゃなくて」
「エドワードがどう言ったかは知らんが、要はびびっちまっただけだろう? だが、綺麗事は言わせないぜ。ここに来たということは、相手がモリビトじゃなくても、人同士が金目になる物を求めて争ったりすることがある。お前一人が嫌なら嫌と言えばいいさ。戦う気力が無い奴を連れていっても足でまといになるだけで、そんな奴を庇う余裕なんぞない。さっきも言ったが、俺はあの連中が探索を邪魔するんなら、戦うだけだ」

 自身の言いたいことを言い切ったロディムは、土器の残りの水を飲み干した。
 ロディムに相談したのは間違いだったかもしれない。
 しかし、びびっちまったという言葉は否定しない。人と似た者たちと戦うことへのも恐怖はあるが、ジャンベは腑に落ちない点もあった。
 隠れた場所から交渉してきたモリビトは、最後に「殺されたのは四人だ!」と言った。―――四人?
 モンパツィオは二人殺したと言った。それなのに、あのモリビトは四人と言った。

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