ハーメルン
このすば*Elona
第1話 仄暗いすくつの底から

 誰かが、あなたの体を揺らしている。
 
「――」
 
 霧がかかったかのようにおぼろげだったあなたの意識が、少しずつ鮮明になっていく。
 
「――――!」
 
 バラバラだったパズルのピースが嵌るように、少しずつ、少しずつ。
 
「――――ちょっとアンタ邪魔だよ! さっさとどいてくれ!」
 
 耳をつんざく怒鳴り声に意識が覚醒するのと同時、強く腕を引っ張られたあなたは無理矢理その場から動かされた。
 ふらつきながらも倒れることは無かったのは、ひとえに運が良かったのだろう。
 そんなあなたの横を、あなたに道を塞がれていた行商の馬車が通り過ぎていく。
 どうやらあなたは町の入り口に立っていたようだ。
 
「どうしたんだ、門の前でぼけーっと突っ立って。轢かれてもしらんぜ?」
 
 あなたの手を引いたと思わしき人間が、呆けた顔をするあなたに笑いかける。
 衛兵と思わしき金属製の鎧に身を包んだ、厳つい顔をした壮年の男だ。
 
 あなたは王都から収容所に至るまで老若男女問わず、ノースティリスで出会った全ての衛兵の顔と名前を記憶しているが、この男性は初めて見る。
 少しでも経験のある衛兵であれば、確実に知っているという自負のあるあなたを知らない様子といい、新人なのかもしれない。
 
 未だ血の足りていない頭で周囲を見渡せば、そこには、あなたの見覚えの無い町並みが広がっていた。
 王都ほど栄えておらず、しかし農村ほど田舎でもない。
 特徴が無いのが特徴の、どこにでもありそうな普通の町、とでも表現すればぴったり当て嵌まりそうだ。
 
 道行く人々は普通の人類種が多いようだが、中には犬猫といった獣の耳が頭についている者、耳の長いエレアといった、あなたが初めて見る風貌のものも散見される。
 ゴブリンや妖精、カオスシェイプのような、一目見てそれだと分かる種族は見当たらない。
 
 はて、ここはどこなのだろう。
 少なくともあなたの知るノースティリスに、このような場所は存在しない。
 
「ここか? 駆け出し冒険者の街、アクセルに決まってんだろ。寝ぼけてんのか?」
 
 衛兵に尋ねてみれば、案の定というべきか、聞かされたのはあなたの知らない地名だった。
 如何なる理由か、どうやらあなたは異国に飛ばされてしまったらしい。
 
「にしてもアンタのその格好。冒険者になりに来た……ってわけじゃねえわな。腕も相当立ちそうだし。王都の方から来た冒険者か?」
 
 一目見て使い込まれていると分かる紺色の外套を纏い、頭から足までガチガチに武装を固め、150センチメートルほどの大剣を背負ったあなたの姿を見て駆け出し冒険者だと思う人間は中々いないだろう。
 正直に話せば怪しまれると判断したあなたは、適当に話をでっちあげることにした。
 
 
 

 
 
 
 自分は見聞を広めるために旅をしている他国の者で、この街には食料の補給のために立ち寄ったと告げると、衛兵は驚くほど簡単にあなたを解放した。
 それどころか、ご丁寧にお勧めの宿や店まで教えてくれた。
 オマケに冒険者ギルドへの加入を強く勧められた。
 異国でも流れ者が手っ取り早く身分証明を手に入れるためには冒険者一択らしい。

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