第101話 おうちかえう! おうちしってう? おうちどっち?
6月?日:ゆんゆん
タイトル:自意識過剰?
『今日、知らない人に声をかけられたんです。とても親しげな様子だったので私も頑張って誰だったか思い出そうとしたんですが全然思い出せなくて。人違いだと思ったんですけど、でもどなたですか? って聞くのも凄く悪い気がして手を振り返したら「えっ」って顔をされてしまって。向こうの愛想笑いを見ておかしいな、私、何かしちゃったのかなって思ってたら、その人は私の後ろにいた人に声をかけてただけだったんです。あまりの恥ずかしさに逃げ出しちゃいました。もしかして私って自意識過剰なんでしょうか』
夜半。自室でランプの明かりに照らされながら、風呂からあがったあなたは微笑ましさに溢れた日記の内容にフォローという名の返信を書き込む。
彼女が経験したのはそこまで珍しい話ではない。かくいうあなたも何度か経験済みである。廃人として名が売れてからはご無沙汰だが。
ウィズ:そうですよゆんゆんさん。そういう話ってよくありますから。
ゆんゆん:そうなんですか? 私だけかと思ってました。
ウィズ:私もやっちゃった事ありますけど、すっごく恥ずかしいですよね。知らない人に親しげに名前を呼ばれて自分の行動や泊まってる宿の部屋番号を把握されてる場合はかなり怖いですけど。
ゆんゆんを慰めているかと思えば、ウィズがいきなり背筋が寒くなる話を始めた。納涼シーズンにはまだ早すぎる。
しかしあなたの知る限り、今のウィズにそういった怪しい者の影は無い。そもそもアクセルに居を構えている彼女は宿に泊まる理由も機会も無いわけだが。
ウィズ:私が冒険者だった頃の話ですからね。
ベア:やけに具体的と思ったら実話かよ! 余計に怖いわ!
ゆんゆん:その人って結局どうなったんですか?
ウィズ:悪質なストーカーとして捕まったそうです。
ベア:何故に伝聞系。お前の話じゃなかったのか。
ウィズ:私の仲間だった男性の話ですよ。ちなみに捕まった方も男性でした。アクシズ教徒の。
ベア:一気に別の意味で怖い話になったなオイ。
つい半日ほど前に会っていたアクシズ教徒の両性愛者にロックオンされているあなたにとって、ウィズの昔話は他人事だと笑い飛ばせるような内容ではなかった。
ゼスタ自身は今のところあなたとのそういったやりとりそのものを楽しんでいる節があるので、まだマシな方なのだろう。彼が本気になって強硬手段に出るような日が来ないことを祈るばかりである。
日記を閉じたあなたは、お手製である癒しの女神の人形に今日も一日大過無く過ごせたことへの感謝と祈りを捧げ、そのまま床に就く。
もちろん枕元には忘れずに白い石を置いてある。
女神エリスはあなたが異邦人であるがゆえに天界に招くのだという。
果たして彼の地で自身を待っているのは何なのか。
期待と不安を抱きながら、あなたは瞼を閉じた。
……三分後、あなたは舌打ちして起き上がった。
苛立ち混じりの視線を向けられているのは、女神エリスから手渡された件のマジックアイテムだ。
夜になってから明らかに光が強くなっているそれのおかげで、明かりを消したにもかかわらずあなたの部屋の中は明るさを保っている。
おかげさまで枕元に置いておくと目を瞑って背を向けても目に光が入ってくる始末。それだけならまだしも、規則的に明滅するというのが最悪だ。安眠を妨害する要素にしかなっていない。何故こんな余計な機能を付けてしまったのか甚だ理解に苦しむ。勘弁していただきたい。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/9
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク