ハーメルン
このすば*Elona
第11話 B:70 W:52 H:71

「あの……何をされているんですか?」

 あなたがアクセルの川の上にある橋の縁に腰掛けて釣りを行っていると、背後から誰かが話しかけてきた。
 聞きなれた声はウィズのものだ。アンデッドだけあって日光に弱いのかフードを被っている。
 店はどうしたのだろうか。

「今日は定休日ですしお天気もいいので久々にお散歩でもしようかと思って。今まではアクア様に会わないように控えてたんですが、結局顔を合わせちゃいましたし。……それで、あなたは何を?」

 ウィズは見て分からないのだろうか。
 川に向けてクリエイトウォーターを使いながら釣りをしているのだが。
 先日魚が食べたいとリクエストをしたのはウィズだ。

「いえ、それは分かります。……分かりますけど、なんでクリエイトウォーターを垂れ流しに?」

 現在あなたは初級魔法スキルの熟練度を上げている最中である。
 ウィズがあなたの家で一瞬で風呂桶を埋め尽くすほどの量の水を垂れ流しているのを見て、クリエイトウォーターでここまでできるものなのかと強く感銘を受けたのだ。
 釣りは片手でできてかつここが水場なのでやっている。釣果を期待して待っていてほしい。

「あ、わざわざすみません……じゃなくて。右手で釣りをしながら左手から水を出し続けてるのってすごい近づきがたい異様な光景なんですけど。現に皆さん遠巻きに見守ってますし」

 確かに今もあなたとウィズに複数の視線が注がれている。
 今はどちらかというとあなたに話しかけているウィズに興味が集中している気もする。

 だが彼らはあなたが物珍しいから離れて見物していたわけではなく、釣りの成果を楽しみにしているだけなのだ。
 近くにいないのは危険だから。

「釣りの成果って……この街の川じゃそんなに大したものが釣れるわけでもないのにですか? それに危険って」

 釣れる。釣れるのだ。
 具体的な話をしようと思った瞬間、グン、と何かが力強く竿を引き始めた。
 当たりが来たのだ。周囲がにわかにざわつき始める。

「な、なんか引きが強くないですか? この川は浅いですし、そんな大きな魚はいないはずなんですけど」

 ウィズが身を乗り出して橋の下を覗き込んだ。
 魚影は無し。ウィズは不思議そうに首を傾げている。

 だがあなたが思いきり竿を引くと川の中からマグロが現れた。
 黒光りする巨体は釣り上げられてまるで鳥のように空を舞った。

「えっ」

 300cmほどの巨体はビチビチと勢いよく橋の上で跳ねる。
 周囲で見物していた人間がワっと歓声を上げた。
 マグロの一本釣りは男のロマンとはあなたの友人の談である。

――やった! 大当たりだ!
――いいぞ!
――ブラボー!

 騒ぎの中、どこからともなく現れたギルドの職員と冒険者達がマグロを素早く回収して去っていった。
 必要な分以外は纏めてギルドが買い取ってくれる話になっている。
 釣果次第ではアクセルの街はキャベツに続いて魚介類祭になるかもしれない。

「え、なんですかあれ。……えっ?」

 ウィズはマグロを見たことが無かったようだ。
 あれは海に生息する大型の魚で、食べるととても美味しいのだ。


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