第12話 ★《くろがねくだき》
ノースティリスとこの世界には多くの差異があるが、その中でも最も目立つのが人の生死に関わることだ。
この世界では一度死ぬとそのまま朽ちてしまう。
蘇生魔法も存在するが使用者はとても少ない上に効果は一生に一度きりしか無く、二度死ぬと完全に終わってしまう。
信じられないほどに命の価値が重い。あなたが街中で核など使おうものなら大惨事になるだろう。
一方ノースティリスでは本人がそれを望まぬ限り、どんな惨い死に方をしても何度でも蘇生することができる。
核で蒸発しても酸に骨の一片まで溶かされても元通りになるのだ。
幾らでも蘇生できるゆえに命の価値が軽い。
勿論蘇生するとはいっても痛いことは痛いし死ぬのは苦しくて辛いので死なないに越したことは無い。
だがいざとなったら命は惜しまないというのが常識だ。どうせ十回も死ねば誰だって慣れる。
更にノースティリスでは人間やモンスターを殺害すると死体から《剥製》という彫像や《カード》という本人の生命情報が記載されたアイテムが生まれることがある。
剥製は本人の生き写しと呼べるほどに精巧なものであり、あなたを含めてこれを蒐集して博物館に飾る者は非常に多い。
あなたは迷宮に魂を縛られていると蘇生できないとか蘇生できる者は魂と肉体が等しく0と1の情報で構成されているために蘇生の際のラグで剥製やカードが生まれるという眉唾物の噂話を聞いたことがあるがさっぱり理解できなかったし興味も無い。
殺せばその相手は剥製やカードを落とすことがあってあなたはそれを集めるのを趣味の一つにしている。それだけだ。
さて、ここで世界間の差異の話に戻るのだがなんと驚くべきことにこの世界では敵を殺しても剥製もカードも落とさないのだ。
蘇生の法則が原因なのだろうが、ノースティリスと違って泣きたくなるほどにコレクターに優しくない世界である。
あなたとしては願いでこの世界の者の剥製が入手できることを祈るばかりだ。
このように剥製が手に入らないのであなたはこの世界では別の趣味で無聊を慰めると決めている。
そう、女神エリスのパンツのような神器の蒐集である。
■
「知ってるか? なんでも魔王軍の幹部の一人が、この街からちょっと登った丘にある廃城を乗っ取ったらしいぜ」
いつものように冒険者ギルドに足を運んだあなたの耳にそんな会話が飛び込んできた。
話をしているのは先日剣を交えかけた女神アクアの仲間の少年と酔っぱらった中年の冒険者だ。
この世界では人類と魔王なる者が率いる異種族が戦争を繰り広げているが、あなたはあまり魔王に興味が無い。
異邦人であるあなたからしてみると国同士が戦争をしているようなものだからだ。
二人はドラゴンだのヴァンパイアだのがやってきたと話をしている。
もし本当に魔王軍の幹部とやらがいてそれがどんなモンスターだったとしても剥製を落とさない以上はあなたの興味を引く存在ではなかった。
それに街の近くまで来ておきながら何もしてこないということはもしかしたらウィズのように非好戦的な存在かもしれない。
目的は分からないがこちらに喧嘩を売ってくるか討伐依頼が出るまでは放置で構わないだろう。
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