ハーメルン
このすば*Elona
第118話 ★《ダーインスレイヴ》

「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

 うらぶれた安宿の一室。
 少しの間周囲を見渡した後、自分を追っていた者達の姿が無いことを認めた少年は、ボロボロのベッドに正座をして深々と頭を下げた。
 身なりこそみすぼらしいものの、高度な教育を受けたもの特有の所作、整った顔、白い肌、金色の髪、透き通った翡翠の瞳もあわせて生まれと育ちのよさをまるで隠しきれていない。

「ふふふ、とんだ甘ちゃんですわね。まるで砂糖がけ蜂蜜練乳ワッフルのような甘さ」

 名前を聞いただけで胸焼けがしそうな菓子を引き合いに出し、リーゼがニヤリと嗤った。

「いつ誰が貴方を助けたと言ったのかしら。どうして貴方を追っていた者達とわたくしたちが無関係だと思えるのです? 一言もそんなことは言っていないというのに」
「そんなっ!?」
「リーゼさん!?」

 少年の端正な顔が絶望に染まり、ゆんゆんがまさかといった声をあげる。

「いやまあ嘘なのですけど。ちなみに彼らですが、貴方との関係を問い質したら襲ってきたのでそこの彼と共にぶちのめしましたわ」
「……はい?」
「ぶちのめしましたわ」

 いえーいとイイ笑顔でサムズアップを決めるあなたとリーゼに面食らった少年は困惑の表情でゆんゆんを見やるも、彼女は無言で首を横に振るだけだった。

「私が止める暇も無くて。もしかして貴方のお友達だったりしましたか?」
「いえ、むしろ敵、とまでは言いませんが、相容れない者達であることだけは確かです」
「ならよかった……いや全然よくないけど」
「それで、肝心の貴方が追われていた理由ですが。まあ今更聞くまでもありませんわね」

 室内の全ての人間の視線が、ベッドに放り投げられたまま転がっている剣に、鞘に収まったダーインスレイヴに注がれる。

「よもやダーインスレイヴとは。いったいどこから引っ張り出してきましたの?」
「確か百年くらい行方が知られていなかったはずですよね」
「それは……」

 苦渋を顔に滲ませ、言葉を詰まらせる少年。
 自身がダーインスレイヴの名を呼んだせいでバレてしまったと考えているようだ。

「…………」

 しばらく黙りこくっていた少年は、やがて視線をあなたに向けてこう言った。

「それを話す前に、その……そちらの方なのですが……本当に大丈夫なのですか?」

 爆発物に触るが如く、恐る恐るの問いかけ。
 何の話だろうとあなたは首を傾げた。頭は間違いなく大丈夫だが。

「普通にダーインスレイヴのことだと思いますよ。思いっきり抜いてましたし。一度抜けば生き血を浴びるまで鞘に収まる事は無いと言われる危ない魔剣を。一度抜けば生き血を浴びるまで鞘に収まる事は無いと言われる危ない魔剣を! 私はやっちゃ駄目ですよって言ったのに!」
「……? 貴方達は僕の持つ剣がダーインスレイヴだと気が付いていたんですか?」
「ええまあ。割と資料は残っているものなので。とはいえ正直なところ、本物かどうかは半信半疑でしたけど。実際本物なんですの?」
「間違いありません。これは正真正銘、本物のダーインスレイヴです」
「じゃあ生き血を浴びないと鞘に収まらないっていうのは……」
「いえ、世間に伝わっているその話は間違っているんです。ダーインスレイヴは決して生き血を求めるような魔剣ではありません」

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