ハーメルン
このすば*Elona
第119話 最近私が可哀想すぎる気がします

 テーブルに両肘を突き、口元で両手を組んだゆんゆんが重苦しい声を発した。

「最近私が可哀想すぎる気がします」

 手で隠されて読めない表情、若干の俯き加減から繰り出される上目遣いは他者とのコミュニケーションを徹底的に拒絶しているかの如く。
 相応の者がやれば相手に威圧感を与えられるのだろうが、悲しいかな、ゆんゆんがやっても可愛らしいだけである。
 だが一応は彼女も真面目に言っているようなので、いつものようにはいはいと雑にあしらうわけにもいかない。あなたはとりあえず目線で続きを促すことにした。

「でもそれ自体に何かを言うつもりはありません。私の自業自得だったり心の弱さが原因なのも沢山ありますから」

 具体的には船上で嘔吐したり。
 戦闘中に酔いがぶり返して魔物の体内でゲロ塗れになったり。
 妹と同調、同化しかけたり。
 救助した相手が王女だったせいで救国の英雄扱いが確定して錯乱したり。
 謝礼として十億エリスでぶん殴られたり。
 ダーインスレイヴを無理矢理持たされかけて恐怖のあまり軽く退行したり。
 最近の彼女は実にバリエーション豊かな目に遭っている。

「ただダーインスレイヴについては流石の私も物申したいことが……持ちませんってば。はあ、またさっきのやりとりするんですか? 何度言われても絶対に嫌です。今度は鞘つきとはいえ笑顔で近づけないでください油断も隙も無い。……鞘から抜けって意味じゃありません! しまいにゃ訴えますよ!? そして勝ちますよ私は!!」

 またしてもゆんゆんの魔剣チャレンジは失敗に終わった。
 魔剣を鞘に収めて引き下がるも、舌打ちして渋面を隠そうともしないあなたに本気の意気込みを感じたのか、ゆんゆんは軽く戦慄いていた。
 だがそれも束の間、すぐに気を取り直してこほんと咳払いをし、話を続ける。

「色々と考えた私は結論付けました。あなたがそういう無茶振りをしてくるのはダーインスレイヴについて詳しくないからだろうと」

 なるほど一理ある。あなたは少女の言葉に一定の理解を示した。

「歴代の担い手が引き起こしてきた凄惨な事件の数々を知れば、あなたもちょっとは私に魔剣を使わせることを思い留まってくれると思います。思い留まってくれるといいなあ。……なので図書館に行きましょう」

 トリフの図書館といえば世界有数の規模を誇る大図書館として名が知られているという。
 あなたの目的である観光という視点でも悪くない、それどころか大いにアリと言える選択肢だ。
 ゆえに異論を挟むこともなく、あなたはゆんゆんの提案を受け入れた。







 リカシィ帝立中央図書館。

 世界的に有名な図書館の一つであるこの場所は、古今東西、世界中から集められた資料の数々が保管されている。
 資料は書籍に留まらず、切手や写真、巻物や地図、果ては絵画のような美術品にまで及ぶ。
 さらに館の奥深くには立ち入りが禁じられた書庫があり、古代の魔道書や呪物が封印されているという。

 中央と銘打ってこそいるものの、この大図書館が建っているのは帝城周辺の外、つまり一般区画であり、平民にまで分け隔てなく門戸が開かれている。
 流石に館外への蔵書の持ち出しや魔道カメラによる撮影は固く禁じられているが、所定の手続きさえ行えば、立ち入りはおろかある程度は自由かつ無料で資料の閲覧が可能だ。

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