第123話 たったひとつの冴えたやりかた。あるいは促成栽培という名のデスマーチ(10%)
圧倒的なスペックを振るい続けたエチゴノチリメンドンヤチームは、その後も順調に勝ち進み、下馬評を裏切ることなく予選を突破した。
これは、予選が終了した日の夕刻、リカシィ帝城の一室にて起きた一幕である。
「アイリス様、ゆんゆん、決勝トーナメント進出おめでとうございます」
王女アイリスに用意されたその部屋は、ささやかな祝いの席へと変化していた。
テーブルには様々な菓子や飲み物が並べられ、部屋の壁には祝、Aブロック突破! と書かれたリーゼロッテ自作の横断幕がかけられている。
「お二人のこれからの活躍を祈って、乾杯!」
「…………」
笑顔でグラスを掲げるベルゼルグの中でも五本の指に入る譜代の臣にして大魔法使い。
だがしかし、肝心のアイリスとゆんゆんからの反応は無い。
本来であれば和気藹々とした空気が流れていたであろう祝賀会は、実際には正反対といってもいい、恐ろしく静かで不穏な雰囲気で満ちてしまっていた。
私、拗ねています、と言わんばかりに頬を膨らませたアイリス。
そして口をだらしなく半開きにし、魂が抜けたかの如く放心した姿を晒すゆんゆん。
笑顔を引っ込めたリーゼロッテはグラスを軽く呷り、こう言った。
「いやー、まさか決勝で負けるとは思いませんでしたわね」
今まさに打ちひしがれている少女達への配慮など欠片も無い老人のずけずけとした物言いを受け、アイリスの頬が更に二割ほど大きくなり、ゆんゆんは椅子の上でびくんびくんと痙攣した。
Aブロック2位。
それがエチゴノチリメンドンヤチームの予選結果だ。
予選ブロックの優勝者には褒賞が与えられるが、決勝トーナメントは各ブロックの8位まで出場可能となっている。
当然予選2位であるエチゴノチリメンドンヤチームも決勝トーナメントに出場する予定となっており、予選決勝で負けたからといって何か問題があるわけではない。二人が求めるものを考えればなおさら。
だがそれはそれ、これはこれ。予想だにしない敗北は二人に決して小さくない衝撃を与えていた。
「反省会にしておきます?」
無言で首肯する少女たち。
とてもではないが祝賀会を楽しめる気分ではなかった。
「ではそのように。……アイリス様、可愛らしく拗ねても時間は戻りませんわよ。ゆんゆんもいつまでも腐った魚みたいな目をしていないで切り替えなさいな」
リーゼロッテが人差し指で王女の頬を突くと、ぷひゅーと間抜けな音がその可憐な口から漏れた。
ここにアイリスの付き人のクレアがいれば刀傷沙汰不可避の狼藉だが、この場には三人しかいない上に気にするものはいない。アイリスもゆんゆんも今はそれどころではないのだ。
「だってリーゼさん、レギュレーションをぶっちぎっておきながらあの体たらくとか、ちょっと、ほんともう……ウィズさん達に腹を切ってお詫びするしか……」
「確かに不甲斐ない戦いといえばその通りでしたが、たった一回封殺食らったくらいでそんなに凹んでどうしますの。予選落ちしたわけでもあるまいし。次に勝ちゃいいんですのよ勝ちゃ」
学生時代、ウィズに挑んではボロクソに負け続けた経験を持つリーゼロッテ。
彼女は決定的な挫折を味わったものに対しては寛容だが、それ以外の敗北は噛み締めて自身の糧とすべしという持論を持つ人間だった。
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