ハーメルン
このすば*Elona
第13話 十三階段への直行便


 とは店主として問題ないのかと以前あなたに聞かれたウィズの弁である。
 言われてみれば確かにあなたは商品を買う気も無いのに来店して落ち込むウィズを見て愛でる者達を見ていない。
 不思議なこともあったものである。

「でもどうしたんですか? いきなり魔王軍の幹部の話をするなんて」

 どうやらウィズは廃城の件を知らなかったらしい。
 あなたはアクセルの近くに魔王軍の幹部がやってきたと教えることにした。

「そうだったんですか……誰が来たんでしょうか。……さんだったら今頃挨拶というか嫌味を言いに来てるはずですし……」

 ウィズはむむむと難しい顔で唸り始めた。
 リッチーだけあって魔王軍に顔見知りがいるらしい。

「え? …………ああ、はい」

 何故だろう。
 あなたには一瞬ウィズが何かを躊躇った気がした。

「……そういえばあなたに話したことは無かったですね。私、魔王軍の幹部の一人なんですよ」

 ウィズはいつもの世間話のように、アッサリとそんなことを言い放った。
 魔王軍の顔見知りなどという浅い話ではなかった。これ以上無いほどに関係者である。
 なんと驚くべきことにアクセルの街にこの世界の人類の敵の一員が店を構えていたのだ。
 言うまでも無いがあなたは初耳である。

「幹部と言っても籍を置いてるだけのなんちゃって幹部なんですけどね。魔王城の結界のことはご存知ですか?」

 あなたも噂程度には聞いたことがあった。
 魔王城には大規模な結界が張られており、結界を破る手段を持たない人類側は攻め込もうにも攻め込めないと。

「魔王軍には私を含めて八人の幹部がいます。そして八人で魔王城の結界の維持を担っているんですよ。けど以前お話ししたように私は今まで人に危害を加えたことはありませんし、魔王軍の幹部としての活動も全くやっていません。こうしてお店をやりながら結界の維持をするだけでいいと言われていますので」

 それだけでも十分に人類に仇なす行為なのだろうが、あなたの関心はベルディアにあった。
 自称魔王軍筆頭のベルディアは本当に自称でしかなかったらしい。
 あまりにも酷い大言壮語にただただ呆れるばかりである。

「…………」

 ウィズは店に入荷する品のセンスが終わっている以外は極めて常識的で善良な女性だ。確かに同僚を狩って資金にしようとは思わないだろう。
 幹部の狩猟を拒否した理由に納得してお茶のおかわりをカップに注ぐあなただが、何故かウィズはそれを静かに見つめている。
 あなたに話したいことでもあるのだろうか。
 自分から暴露しておいて秘密を知られたからには生かしておけないなどと言い出したら幾ら相手がウィズであってもあなたは大笑いする自信があった。

「……いえ、本当に大したことじゃないんです。ただ、私が魔王軍の幹部と知ってもあなたは態度も反応も何も変わらないんだなって」

 そこまで言って、ウィズは一息ついて紅茶を口に含んだ。

「幾らあなたが別の世界から来たといっても、ここまでいつもの世間話のように軽く受け取められるとは思わなかったんです」

 あなたはおかしなことを言い出したウィズに思わず笑ってしまった。
 大したことではないと言ったのはウィズの方だし、あなたからしても実際に大した話では無い。

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