ハーメルン
このすば*Elona
第127話 第一層:千年樹海

【竜の谷第一層:千年樹海】

 ともすれば世界の果てまで続いているのではないかと錯覚する、どこまでも果てが見えない広大無辺な樹海。
 竜の谷に満ちる魔力によって変質した動植物は、他に類を見ない独自の生態系を築き上げている。
 過去数多の英雄、勇者、賢者が竜の谷に未知と財宝と栄誉を求めて挑み、命を落としてきた。

 第一層という呼称が示すように、確固たる事実として、竜の谷という魔窟においては千年樹海すら浅瀬にすぎない。竜の谷には樹海の先がある。
 だが樹海を抜け、第二層まで辿り着いた上で生還を果たした者は全挑戦者中僅か1%に満たない。
 更に眉唾物の話ではあるものの、歴代の魔王の中にすら竜の谷で消息不明になった者がいるという。
 人類はおろか魔族からも禁足地と呼ばれる恐ろしい場所でありながら、彼の地へ足を向ける者は後を絶たない。
 希少なアイテムの数々、そして踏破した先に待つ未知と栄光に浪漫を求めて。
 さながら火に引き寄せられる虫のように。

 自分なら、自分達ならきっとやれると。
 未知を解き明かし、魔境を踏破し、歴史に己が名を刻んでみせると。
 根拠の無い自信に導かれて。

 恐らくこの書を開いた者は竜の谷の情報を求めているのだろう。
 だからこそ記す。竜の谷とは我々のような定命の者が足を踏み入れてよい場所ではない。
 命を無為に散らせたくなければ決して近寄るな。蓋をしろ。歴史の闇に埋もれさせてしまえ。
 どうしてもというのであれば、せめて竜のアギトの出口で引き返すべきだ。
 樹海に足を踏み入れ、手遅れの段階になってから悔やんでも全ては遅いのだから。

 ――ナンテ・コッタ著『竜の谷探索紀行』より







 空間が歪み、時の流れが外とは異なる竜の谷にも等しく夜は来る。
 無数の巨木が競い合うように生い茂る樹海の中は、月の光も届かない深い闇に包まれている。
 だがそんな樹海を空から目を凝らして眺めてみれば、竜のアギトにほど近い、ある一点だけが微かに明るさを放っている事に気が付くだろう。
 それは魔道具という、人の手によって灯された明かりだ。
 耳のいい者なら、明かりに耳を澄ませば聞こえてくるかもしれない。
 悲鳴と、絶叫が。

「来るな! 来るなよお!」
「もうやだあ!」

 悲鳴の主は大木に背を預け、震える手で必死に武器を振る四人の少年少女。
 足元に転がったランタンに照らされる彼らの表情は恐怖と絶望で滑稽なまでに歪みきっており、整った顔は見る影も無い。

 そんな四人は周囲を完全に囲まれてしまっていた。
 見れば嫌悪感を覚えずにはいられない、ニタニタと下品で邪悪な笑みを浮かべた、人間の子供ほどの背丈をした緑肌の子鬼、ゴブリンに。
 ゴブリンといえばドラゴンに並んで有名なモンスターであると同時に、ドラゴンとは正反対の、弱小モンスターの代名詞だ。
 今まさに命を落とそうとしている彼らとて、何度もゴブリンを倒した経験を持っている。これがただのゴブリンであれば鎧袖一触で蹴散らしていただろう。

 だがしかし、ここは言わずと知れた竜の谷。
 ゴブリンひとつとっても外のゴブリンとは強さが違う。装備が違う。賢さが違う。
 竜の谷に挑んでは散っていった者達の装備を手に入れ、魑魅魍魎が跋扈する樹海で長年生き続けてきたゴブリン達は、時に格上のドラゴンすら狩り殺すだけの能力を有している。

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