ハーメルン
このすば*Elona
第131話 憧憬と羨望

【決して色褪せぬ記憶。あるいは英雄譚の始まり】

 駆け出し冒険者の町、アクセル。その冒険者ギルド。
 一年前に建て直したばかりで真新しい建物の片隅で、一人の少女がちびちびとジュースを飲んでいた。
 年齢はつい最近二桁に届いたばかり。にもかかわらず周囲の喧騒を一切意に介さず泰然と振舞う姿からは、ある種の風格すら漂わせている。
 衣服こそ簡素な普段着だが、その長い髪から覗く貌は幼くして完成されており、このまま成長すれば、誰もが振り向かずにはいられない極上の美女に育つ未来が約束されていた。
 そんな彼女は、つい最近冒険者になったばかりの駆け出しである。

 少女はベルゼルグの片田舎で生まれ育った孤児だ。親の顔も名前も覚えていない。
 孤児が冒険者になるというのはこの世界では珍しくもない話だが、彼女については少々事情が異なる。
 エリス教の孤児院で暮らしていた彼女はある日、魔物の襲撃によって住居である孤児院を失ってしまう。
 幸いにして死人こそ出なかったものの、路頭に迷いかけていた孤児達を救ったのは、たまたまその場に居合わせた老魔法使い。
 ベルゼルグ王立魔法学院という権威を持つ場所で長年に渡って教鞭を執り、平民生まれでありながら貴族位を持つ彼は、少女を引き取る代わりに金銭や孤児院の再建といった援助を申し出たのだ。
 邪推など幾らでも出来てしまう、人身売買じみた行為だったが、魔法使いは断じて下種な目的や悪意を持って近づいたわけではない。
 若い才能が芽吹く姿を何よりも愛する彼は、哀れな境遇にある孤児の中から彼女を見出した。数多の教え子を導いてきた経験が少女に眠る類稀なる魔道の才覚を見抜いたのだ。

 後見人となった魔法使いに薦められるまま魔法学院に入学した少女だったが、結果として魔法使いの見立ては正しかったといえる。
 老魔法使いの指導の下、あまりにも非凡すぎる才能を見せた少女は、入学から卒業まで一貫して首席を維持し続け、数々の画期的な論文を発表し、前途有望な生徒と教員の心を片っ端から圧し折り、学院の最年少卒業記録を大幅に更新し、孤児院で暮らしていた頃からの夢だった冒険者になった。
 首席卒業者の常として宮廷魔道士や貴族のお抱えとしてスカウトを受けたが、少女はその全てを興味が無いと一蹴。

 そんなこんなで無事に学院を卒業して一人立ちしたのはいいのだが、王都をはじめとする街々を観光していたのが悪かったのか、アクセルに辿り着いて十日が経過したにもかかわらず、少女は未だに誰ともパーティーを組めずにいた。
 この年の新人冒険者は例年よりも数が少なかったというのもあるが、何より春という新人冒険者が一同に会し仲間を見つけるシーズンは既に終わってしまっている。
 しかも少女は学院で冒険者登録を終えているので、ギルド職員や同業者からは冒険者だと認識すらされていない。杖を持っていたり学院の制服を着ていれば話は変わったのだろうが、今の彼女は安物の子供服に身を包んでおり、一人立ちの餞別として後見人からプレゼントされた杖も魔法の袋の中。

「…………」

 トドメに少女は無表情で無愛想だった。
 無感情ではないのだが、感情表現は悲しいほどに下手糞。
 本人に自覚こそ無いが、一般的にコミュ障と呼ばれる人種である。間違っても積極的に他人に話しかけていく人間ではない。

 ――魔道の研鑽を優先しすぎたせいで対人能力が壊滅的な上に一般常識も疎かなまま巣立ってしまったが、肝心の本人がそれを望んだのだからしょうがないな。かくいう儂も最高に楽しかったし!

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