第14話 14へ行け
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さて、元魔王軍幹部のベルディアをペットにしたあなただが、実のところ問題はかなり多い。
本格的にやるなら育成環境を整える必要があるし、何より魔王軍の幹部、デュラハンのベルディアといえば音に聞こえた人類の大敵である。図鑑にも名前が載っていた。
あなたの大切な友人のように名も知られていないなんちゃって幹部ではない、現役の高額賞金首だ。
非戦闘員には手を出していないらしいが、人間を殺していないわけではない。
ベルディアを憎む者など数え切れないほど多く存在するだろう。
『なんだご主人、早くも後悔しているのか?』
あなたが街のベンチに座って空を眺めていると、頭の中に腰に付けたモンスターボールに入っているベルディアの挑発的な声が聞こえてくる。
後悔など有り得ない。ナイスジョークと笑い飛ばしたいところだ。
『……ふん、どんな目に遭わされるか精々楽しみにさせてもらおう』
さし当たってはベルディアを外で呼ぶあだ名を考える所から始めるのがいいだろう。
対外的にベルディアのままというのはどう考えても論外だ。
『あだ名か。まあ当たり前だな』
とりあえずポチでどうだろうか。
『ポチ!? 今ポチっつったか!? なんでそうなった!?』
騎士=忠義に厚い=主人に従順=犬=ポチ。
非の打ち所の無い完璧な論法である。
『もしその名前で呼んだら俺は首を括るからな』
今のはベルディア渾身のデュラハンジョークだろうか。
あなたとしてはかなり大爆笑である。
『ちげーし!! ふざけんなし!!』
冗談はさておき、どうやらベルディアはあなたの決めた名前がお気に召さなかったようだ。
割とぴったりだと思ったのだが。
『……ご主人の劣悪なネーミングセンスは置いといて、今の俺は命惜しさに、あるいは力を求めて魔王軍を抜けた裏切り者だ。どう見ても忠義に厚いとは言えんだろ』
なるほど、前半はともかく後半については異論を挟む余地は無い。
ではベルディアから二文字抜いてベアで。
『なんか昔そんな名前の騎士がいたな。剣の回避スキル、パリイの達人だったか……おいご主人、誰か来たぞ』
「……えっと、どうも」
ベルディアの声に空を見上げるのを止めたあなたの目の前にはカズマ少年とめぐみんが立っていた。
だが二人はあなたの知る格好ではない。
カズマ少年はあの珍妙な服装ではなく普通の服を着ていたし、めぐみんは杖を新調したと見える。
「こないだはうちのバカがすみませんでした。あの後よく言って聞かせておきましたんで」
ベルディアに気付いていないような素振りだが、実際少年を含めて誰もベルディアの存在には気付いていない。
彼の声はあなたにしか聞こえていないのだ。まるで電波である。
少年が言っているのは共同墓地でウィズを浄化しようとした一件だろう。
女神アクアは自分の本分を果たそうとしただけだ。あなたは彼女に隔意は持っていない。
結果的にウィズには何も無かったわけだし、当事者であるウィズが何も言わないのならばあなたから言うことは何も無い。
あなたがそう言うと二人は安堵の息を吐いた。ウィズを命の危機に晒したことを気にしていたようだ。やはりこの世界の命の価値は重い。
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