ハーメルン
このすば*Elona
第2話 eふeふzえろ

 最後の一文が目に入った瞬間、ピタリと思考を停止させることになる。

――なお、冒険者登録には1000エリスが必要です。受付窓口にてお支払いください。

 エリス。
 散策中に露店などで何度か見かけた、この世界の貨幣単位だ。
 果物やパンの価格を勘案するに、1000エリスはせいぜい一食分。
 冒険者ギルドへの所属が身分証明を兼ねると考えれば、それこそ破格の値段と言えるだろう。

 ……なのだが、これは困ったことになった。異邦人であるあなたは勿論1エリスも持っていない。
 身分証明のために冒険者として活動すると決めている以上、どうにかして金を稼ぐ必要がある。

 命綱に等しい装備品や物資を売り払うのは論外。
 ノースティリスの貨幣は金貨なので、いざとなったらそれを換金するという手もあるが、ここは素直に現地調達を行うのが正解だろう。
 方法は幾つか思いつく。さて、どれを実行すべきだろうか。

「おうおう、見ねぇ顔だなぁオイ。ようこそ駆け出し冒険者の街、アクセルへ」

 演奏も悪くないが、手っ取り早いのは窃盗か強盗だろうと考えが纏まりかけたところで、あなたの隣に半裸でモヒカンの酒臭い男が座ってきた。
 感じ取れる力量はそれなり。しかし彼もまた、ギルド内にも稀に見かける駆け出しではない人間のようだ。

「さっきから見てたけどお前あれだろ、最後のページに書いてた登録料を払えなくて悩んでるんだろ? たまにいるんだよなあ、お前みたいなのが」

 挑発的に笑いながらも、あなたに絡む男から悪意は感じない。
 これで的外れな理由だったら笑い種なのだが、彼の言うとおりなので頷いておく。

「だろ? そこで提案だ。昨日ギャンブルに勝って懐が暖かい俺が、お前の代わりに払ってやるよ」

 男は酒を呷りながらおかしなことを言いだした。
 彼からはやはり悪意は感じないが、初対面のあなたに施しを行う意図が読めない。
 突っぱねるのも排除するのも簡単だが、さて。

「ああ、別に何かしようとか恩を着せようだなんて考えてるわけじゃねえ。理由の無い善意なんて怪しくてしょうがねえって思うのも分かる。でも一応理由はあるんだぜ?」

 不意に、男は懐かしそうに目を細めた。

「俺も駆け出しで素寒貧だったとき、今のお前さんみたいに助けてもらったかんな」

 当たり前と言えば当たり前だが、この男にも駆け出しの時期があったらしい。
 勿論あなたにもあった。

 具体的には遭難したところを助けてくれたエレアに人肉を食わされて発狂したり金を稼ごうと店を構えたのはいいが税金を払えずに犯罪者堕ちしたりガイドのアドバイスに従って自宅で魔法書を読んで大惨事になったりスライムを倒してくれという依頼を受けたら装備をボロボロにされた挙句骨まで酸で溶かされたり酒場で演奏したら聴衆の投石で頭蓋が爆散したりミノタウロスの王に辻斬りされたりした。
 他にも挙げれば幾らでも出てくる程度には散々な目にあってきたが、どれも今となってはいい思い出である。

「だからよ、お前さんも余裕があって気が向いたときだけでいい。同じように立ち往生してる奴を見つけたら助けてやってくれや」

 そう言いながら硬貨を数枚差し出してくる。
 何かを企んでいるわけではなさそうだ。

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