第31話 幸運の女神の依頼
機動要塞デストロイヤー討伐。
長年人間達を苦しめてきた難攻不落の機械蜘蛛が遂に破壊されたのだ。
この近年稀に見る吉報はギルドを通じて即日で国中に通達され、驚愕、あるいは喝采を以って受け入れられた。
討伐の報酬である三十億エリスだが、支払いは情報のように即日、というわけにはいかなかった。
額が額なのでいくら冒険者ギルドといえども一日二日で掻き集める事が出来るわけではない。
あなた達冒険者達に報酬が渡るのは数日後の予定になっている。
迎撃に参加していた冒険者の数はあなたの見立てではおよそ百数十人に及ぶ。
報酬の分配方式がどうなるかはまだ分からないが、もし全員に平等に分配されるとなると数千万エリスに届く事になるだろう。税金が怖い。
結界を破壊した女神アクア、あなたの囮となって時間を稼いだダクネス、コロナタイトを回収しドレインタッチで爆裂魔法のアシストを行ったカズマ少年、ウィズと共に脚を破壊し更には爆発寸前のデストロイヤーを見事に消滅させためぐみん。
討伐作戦の中核を担ったカズマ少年達の借金もかなり減る事になるのではないだろうか。
仮に分配方式が出来高制だった場合は相当な額に及ぶだろう。
全員平等だった場合はウィズにしている借金は二億五千万エリスなので全額返済とはいかないだろうが、それでも返済はかなり進む事になる筈だ。
そして、デストロイヤー攻略の中核を担った中の最後の一人であるウィズだが……なんと彼女は現在床に伏せてしまっていた。
■
片手に二人分の軽食と果物と飲み物を乗せたトレイを持ち、反対側の手で二度ウィズの部屋のドアをノックする。
「どうぞ、開いてますよ」
ドアを開ければそこには寝巻き着でベッドに横になっているウィズの姿があった。
暇を持て余していたのか、枕元には数冊の本が。
あなたが昼食を持ってきたと告げると、ウィズはゆっくりとベッドから身体を起こして申し訳無さそうに力なく笑った。
「もうそんな時間なんですね。すみません、こんなみっともない事になっちゃって……いたたたた、ビリって来ました……!」
眉を顰めて足を擦るウィズはまるで重症患者の如き痛々しい有様である。
だがこれは戦いの後遺症やアンデッド特有の問題といった深刻な話ではない。
「足が、足が……!」
そう、ウィズは筋肉痛になってしまったのである。
しかもデストロイヤー討伐の翌日ではなく、二日後に。
翌日は何ともなく、私もまだまだ行けますねなんて事をウィズは言っていたのだが、あるいはそれがいけなかったのだろうか。
アンデッドは肉体的に疲労しないというベルディアの発言は一体何だったのか。
斬首されデュラハンになったというベルディアよりも人間に近い故の弊害なのかもしれない。
どちらにせよ討伐の際に全力疾走を続けたウィズは現在まともに動けない状態だ。
おかげで今日の家事はあなたが担当する事になった。
幾らウィズが後衛職で見るからにインドアな女性だといっても流石にこれは運動不足にも程があるのではないだろうか。
ベッドに座って涙目でひんひんと可愛らしく鳴きながらふとももとふくらはぎのマッサージを行うウィズの姿に、あなたは先日のウィズの勇姿を思い返してやるせない気持ちになった。
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