第39話 いっしょにとれーにんぐ
あなたの自宅の一角に設置された異空間、シェルターの中。
本来であれば無機質な鈍色の床はハウスボードの効果で芝生に変換されており、まるで街の外の草原のような光景が広がっている。
そんなこの世界の常識から外れた場所であなたと対峙しているのは紅魔族のゆんゆんだ。
ゆんゆんはやけに緊迫した雰囲気を漂わせているが、ただの組み手の最中である。
デストロイヤーが来襲した日に受けたゆんゆんに修行をつける依頼は今も尚続行中なのだ。
ウィズも運動不足の解消の為にトレーニングに付き合っているが、まだ組み手までは行っていない。
「――ッ!」
そしてあなたは今日も今日とて鋭い呼気と共に繰り出される拳と足、そして逆手に持った短剣を交えたゆんゆんの素早い連撃を時にひらりと回避し、時に打ち払いながら器用に捌いていく。
互いに鍛錬用に刃を潰した短剣を使っての組み手。
ベルディアのように直接的なレベルアップにはならないが、それでもあなたとウィズの教えによってゆんゆんの技術は確かに磨かれ続けている。
アークウィザードという後衛職、そしてゆんゆんの体躯も相まって彼女の攻撃はソロ活動でそれなりにレベルが高くなっているにも関わらず軽めだ。同レベル帯の前衛職には及ばないだろう。
そこを彼女は速度と手数、隙あらば積極的に急所を狙っていくスタイルで補っている。
ちなみに急所狙いはあなたが徹底的に手ほどきした結果である。
最大の急所である首を狩れば生き物は死ぬのだ。少なくともノースティリスでは。
だが露骨に急所を狙い過ぎては相手としては逆に与しやすくなってしまうので注意が必要である。
戦うスタイルは両者共に魔法戦士と呼べるあなたとゆんゆんだが、組み手の際は魔法の使用は厳禁になっている。
頑丈なあなたはともかく後衛職のゆんゆんが攻撃魔法を食らうととても危険だからだ。
そんなわけで魔法の運用を指導するのはゆんゆんと同じアークウィザードであるウィズの担当である。
少なくともノースティリスの魔法戦士――職業の魔法戦士ではなく、魔法と武器を併用するという意味で――としては歴戦であるあなたも時折口を出す事があるが、それでもこの世界の魔法に関してはあなたよりも圧倒的に熟知しているウィズがメインで教えている。
ゆんゆんとしても凄腕として名を馳せたウィズの指導を受けるのはいい刺激になるらしく、紅魔族の学校より、ずっと凄い! と目を輝かせていた。
話を聞くに紅魔族の魔法学校は色々な意味で濃い場所だったらしく、常識的なゆんゆんは浮いていたのだとか。
何故同じ里で育ってなぜゆんゆんだけがあのような性格になるのかは定かではないが、めぐみんのノリを見るにゆんゆんはさぞ生き辛かった事だろう。
そんなゆんゆんにウィズはこのままならこの国の歴史に名を残すかもしれませんね、と太鼓判を押していた。
バニルやベルディア曰く才覚や力量という点では現役時代のウィズは確実に人類史に残るレベルだったらしいのだが、そんな彼女に妹分が相手という贔屓目を差し引いてもそこまで言わせるとは驚きである。
更にゆんゆんは勤勉で飲み込みが早いのでとても教えがいがある、というのがあなたとウィズの共通の認識だ。
かといってゆんゆん本人もあなた達に教えられた技術や知識を鵜呑みにせず、自分なりに上手く噛み砕いて吸収している辺り彼女の優秀さとこれまでの努力の跡が窺える。
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