第8話 女神のパンティおくれー!(物理)
あなた達の使う窃盗スキルは純粋に速度と技量、そして盗む物を持てるだけの筋力が要求されるが不運な者でも狙った獲物を盗ることが可能なのだ。
結果、硬く握り締めているにもかかわらずあっけなく少年の手からパンツは消えた。
まだほのかに温もりが残ったそれをあなたはまるで財布を仕舞うかのように自然な仕草で懐に入れてその場を立ち去った。姿を消していないにもかかわらず誰にも気付かれること無く。
ちなみにここまで一連の行動は全て無意識のうちに行われている。
もう一度言う。一連の行動には一片たりともあなたの意思は介在していない。
あなたには悪意どころか悪戯心すら無かった。
イイ顔で女神を辱める少年に義憤を覚えたわけでも羞恥に悶える女神エリスに劣情を催したわけでもない。
実際数分後、ギルドに入ろうかというときになってようやくあなたは懐に入っている純白の布きれの存在と自分がやったことの意味に気付いたくらいである。
あなたはただ珍しいものを見つけて、かつそれが盗んでもいいモノだったから自分も盗んだだけなのだ。
無論窃盗が悪行だとは理解している。時に強盗殺人よりも重い罪になることも、窃盗が失敗しようものならその場で殺されても文句は言えないことも重々承知の上だ。
だがこればかりは長い年月ノースティリスで培われた習性が存分に発揮されたのだから仕方無い。
懐の中のパンツの存在に気付いたあなたは頭を抱えた。
パンツを盗むのはいいがこればっかりは相手が悪すぎる。
あなたがパンツを持っていったと女神エリスに知られようものなら神罰は不可避である。
だが今のところ女神エリスにバレているわけではないようだ。そうなら既にあなたに接触してきているはずだからだ。
数瞬ほど女神エリスに返却すべきか悩んだ後、あなたは女神がパンツを盗まれる方が悪いと開き直ることにした。
金に換えられない貴重な品である女神のパンツを一目見て欲しいと思ったことは決して嘘ではないし、何より犯罪はバレなければ犯罪ではないのだ。このルールはノースティリスもこの世界も同じだろう。
だがあなたがこのパンツを使うことは無いだろう。
頭部という一際目立つ部位にこのパンツを装備して活動しようものならどこで女神エリスに知られるか分からない。
かといって本気の装備として使うには性能が些か物足りない。
もしあなたが女神エリスの信者で、この下着を女神エリス直々に賜っていたのなら絶対に使用していただろうが。
そんなわけであなたのコレクションに女神エリスのパンツが追加されたのだった。
■
ギルドの中は大騒ぎになっていた。
冒険者の中心で女神アクアが見事な水芸を披露していたのだ。
あなたはあの中に混じって火吹き芸を披露しようかと思ったがここは屋内で更に酒場だ。
炎で巨大なドラゴンと剣士を作って即興劇でも始めようものなら出禁を食らいかねない。止めておくのが賢明だろう。
「じゃあ今回はここら辺で……おひねりは止めてくださーい!」
観衆に満面の笑顔を振りまく女神アクアは今日も絶好調だ。
己の心の赴くままに下界を満喫している。周囲で見守っているアクシズ教徒らしき者達も大満足だ。
その一方で後輩の女神は少年とあなたにパンツを盗まれて紛失するという散々な目にあっていたが。
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