第010話 とある村での厄介事編④
「それでは、お兄さんに問題です。盗賊のお頭というのは、一体何人いるものでしょうか」
「一体何の話だ?」
「大事な話ですから、きちんと考えてください。風は稟ちゃんたちと旅をしている間に、この国で起こった賊の規模、構成、官軍あるいは民兵に討伐されたならそれに費やされた人員、費用、時間、その他諸々を調べました。その結果によれば、盗賊のお頭は概ね一人ですね。共同代表を設けているところも三つほどありましたが、例外なく内紛が起こって殺し合いになりました」
いやー、怖いですねーと全く怖がっていない様子で、程立は飴を舐めている。準備している間、作戦を頭に叩き込んでほしいと、子義と一緒に呼び出されての話である。その場に戯志才と徐晃も同席していた。徐晃は実働部隊として、一刀に同行することになっている。
程立と同様に、何を考えているのかよく解らない少女の瞳は、何やらじ~っと一刀のことを見つめ続けていた。視線を返すと、首をこてんと傾げてみせる。嫌われている訳ではないことは解るが、同時に意味も解らない。年頃の少女は難しいのだという現代の常識は、この世界でも当てはまるようだった。
こうなると竹を割ったような性格である子義の存在が頼もしい。今も忠犬とは私のこと、と言わんばかりに一刀の傍に控えている。ちらと視線を向けると、太陽のような笑顔を返してきた。随分とこの笑顔に助けられた気もする……と感慨深く溜息を吐く一刀だったが、今は作戦のことだ。
「同格の奴を沢山作って、話し合いで決めるって賊はなかったのか?」
「そういう都の若手官僚のような方法を好む人間は、間違いなく賊にはなりませんねー。話を戻します。では、副団長さんは何人でしょう?」
「一人……じゃないのか?」
自警団でも、副団長は子義が一人である。複数設ける案もあり実際にそうしたのだが、最終的には一人で落ち着いた。序列はできる限り明確にしておいた方が良い、というのがその理由である。
「調べた限りでは一人が多かったですけど、序列を設けて二人、三人置くところも結構ありました。『何か』あった時、次に誰の命令を聞けば良いのか明確にしてるんですね。従軍経験者が上の方にいたんじゃないかと、風は考えています。更に質問です――と、お兄さん。計算はどの程度できますか?」
「一通りは。大丈夫。大体の計算は問題なくできるよ」
「優秀ですねー。それで質問ですが『幹部』――集団の意思決定にある程度関与できる人は盗賊団の内何割くらいを占めると思いますか?」
程立の問いに、一刀は自警団に合わせてそれを考えてみた。自警団は一刀を含めて三十三人で、幹部、と言うか役職があるのは団長である一刀、副団長である子義、それから約十人ごとに部隊を分けた時に、それを指揮する人間が三人である。
従軍経験者が務めるこれは便宜上十人隊長と呼ばれている。この三人に一刀たち二人を加えた五人が、自警団における役職持ちである。残りは全員同列だ。三十三人の内の五人。計算し、キリの良い数字にするとして……
「…………一割五分ってところじゃないかな」
「自警団に当てはめて考えましたね? 一応、正解と言っても良いでしょう。ですが、少人数と多数の集団では事情が聊か異なります。仮に二百五十人の賊がいるとして、その中で団の意思決定に関与できることを幹部の条件とするなら、それを満たすのは二十人にも満たないんじゃないかと思います。後はそれぞれが子飼いの人間を抱えて、末端までを支配する。盗賊は概ねそういう構図です」
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