第018話 流浪の軍団編⑤
「それでは諸葛亮。差配は引き続きお任せします」
「承りました。それでは――廖化さん」
「おうよ」
「五人連れて先ほどの射手の動きを抑えてきてください」
「別に首級を挙げてしまっても構わんのでしょう?」
「貴方がたの安全と、任務第一でお願いします。お願いしたいのはこちらで戦ってる間、もう岩を撃たせないことです。そのために犠牲がでるというのなら、首を挙げる必要はありません」
「了解でさあ。いくぞ、野郎ども」
廖化の一声で、五人の部下が共に駆けていく。悪路をモノともしない。彼らは元盗賊。舗装された日の当たる道ではなく、人目のない、じめじめとした悪路を歩くことを生業としていた者たちだ。最近訓練こそしているが彼らの専門は『いかに一方的に相手をぶちのめすか』に特化しており、それはただの兵よりもよほど軍学の本質に通じていると言える。
具体的な説明をするまでもなく、自分よりも大分年下であるはずの子供の指示にも、嫌な顔一つせず駆け出していった廖化たちを見て、諸葛亮は彼らの認識を改めた。強面であるというだけで、かなりの苦手意識を持っていたのだ。人は見た目に寄らない。知識として理解していたことに、初めて実感が伴った瞬間である。
「次に徐晃さん。後方から十騎ほど迫ってきます。これを無力化してください」
「安全第一?」
「いえ、手段は問いませんが確実に無力化をお願いします。後、馬はなるべく傷つけないようにお願いしますね。戦闘後にできるだけ回収したいので」
「了解。行ってくる」
無手のまま、シャンは後方に向けて駆けていく。その際、一番後ろの馬車を護衛していた面々はあっさりとシャンを見送った。勝手な行動をするなと咎める人間はいない。郭嘉や諸葛亮などのように、こういった緊急時に対応を考えることのできる人間がいないため、彼らはなし崩し的に一刀たちの傘下へと入っていた。
彼らを使えば、こちらの戦力を危険に晒さずに対応できる。諸葛亮の脳裏に別の作戦が浮かぶが、すぐさまそれを却下した。味方の実力を信頼しているというのもあるが、何よりその発想は目先の利益に囚われ過ぎている。
軍師は、味方の誰よりも先を見て行動しなければならない。この商隊との関係は今度も続くだろう。このせいで今の行動に制限を受けたと考えるのではなく、多大な恩を売りつける好機だと考える。味方の消耗は限りなくゼロに近づけ、同様に商隊の護衛の損耗も抑えなければならない。
現状、正面からの突撃を受け止めるために、護衛は車列前方に集中している。理想は護衛の被害を、敵部隊との一度の接触だけに抑えることだ。その援護に人員は回さず、襲撃者を殲滅することに全てを費やす。護衛と襲撃者を二度も接触させてはならない。作戦の肝はそこである。
「正面から襲撃してきた騎馬二十は一度の接敵の後、両側に十ずつに分かれます。我々は戦力を片側に集中し、まず一方の殲滅を目指します。陣頭指揮は一刀さん、お願いできますか?」
「承った。でも、これに関しては俺が指示できるようなことはほとんどないな……」
ははは、と苦笑を浮かべる一刀に、団員たちが追従した。こちらより数が少ないとは言え、騎馬を相手に軽装で戦うというのに誰にも緊張した様子は見られない。
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