第007話 とある村での厄介事編①
荀攸の屋敷で寝泊まりをした間は、主に元直――すぐに気心が知れ、元直と字で呼べと要求された――と散策をしたり問答をしたりして過ごした。滞在期間は三日である。そろそろ洛陽を立つという彼女に合わせて、一刀も荀攸邸を辞することにした。
結局、初日に出会った劉姫とはあれきり出会うことはなかったが、彼女の教師である荀攸からは手紙を預かった。流麗な文字にて曰く『必ず抜け出して会いに行くから、次に洛陽に来た時は一緒に街を散策しましょうね。約束よ』とのこと。絶対に他の連中に内容は見せるな、とのことだったので、甚く内容を気にしていた荀攸にも秘密と相成った。
胃が痛むらしい荀攸に見送られて洛陽を立ってしばらくは、荊州にあるという元直の母校を目指して南下する。荀攸から餞別として馬を貰ったので、荀家から洛陽までの道中よりは、比較的早いペースで進んでいる。しばらく前まで馬に乗るなど考えもしなかった立場である。旅慣れた元直に比べると聊か恰好悪い乗り様ではあったが、それをからかわれながら旅路を行くと話も弾んでくる。
故郷の話は洛陽で一通り話し切ってしまったので――その後、『絶対に信頼がおけると判断できる相手以外には、この話はするな』と釘を刺されてしまったが――道中にするのは主に元直の話である。旅慣れ人に慣れ話に慣れた彼女の話は面白く、聞き役になるのが一刀の仕事だった。
慣れない馬の旅、そして良く考えれば人生で初めての女性と二人の旅行であるという事実に気づき、遅まきながらどきどきし始める頃には、旅にも終わりは見えてきた。学院に一番近い街で別れるという約束であるため、順調に行けば、後三日程。
もうすぐ日が暮れる。今日は近くの村で宿を借りようと話していた矢先、ようやく村が見えてきた頃、一刀の耳に人の争う声が聞こえてきた。
ただ事ではない。二人は瞬時に、馬を駆けさせる。村の入り口。大勢の武装した男が、一人と戦っている。おそらく村人だろう。遠目には男性か女性かも解らなかったが、背格好からして子供のようである。そのたった一人が、大人の男たち相手に立ちまわっていた。
ただ事ではない腕前だが多勢に無勢だ。援護は必要であると判断した一刀が元直を見ると、彼女は小さく頷いてみせた。
「君が突撃、僕が援護ってことでどうかな」
「俺が援護、元直が突撃の方が良くないか?」
「君が僕よりも弓を上手く扱えるって言うならそれでも良いよ」
「悪かった。俺が突撃、元直が援護だ」
先行して、馬を駆けさせる。立っている賊は数えてみた所、十五人。既に倒れているのが何人かいる。子供一人で、と思うと憤りも湧くが、賊をまとめて相手取れると判断したからこそ一人での相手ということもある。いずれにせよ手練れであるならば、素人に毛が生えた程度の自分の心配など、大きなお世話に違いない。
馬で走ってくる一刀に、賊の一人が気づいた。迎撃する者はいない。慌てて道をあける賊に、すれ違い様に斬りつけ、戦っていた者を回収した。
「乗れ!」
しばらく走って馬は反転、再び賊たちの方を向く。戦意は失っていないが、後ろからは元直の援護が入る。放たれた矢は狙い違わず確実に命中していく。村人を攫って行った一刀に比べて、明らかに手練れの雰囲気だ。賊であるからこそ命は惜しい。我先にと逃げ出すが、ただ走っているだけの人間など的と変わらない。
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