おわり
彼の口から溢れた言葉が、白い息を伴って空へと消える。
観覧車には乗らない。
その言葉が、黒い錘となって私の胸へ重たくのしかかった。
痛い。
胸がすごく痛い。
ただ観覧車には乗らないと言われただけなのに、深い意味を勝手に理解した私は酷く落ち込んだ。
気づけば離れていた手を見つめ、途端に訪れる静寂。
…全部、全部、私の思い上がりだったんだ。
美術室に顔を出してくれた彼も、傘に並んで入った彼も、ディスティニー城で話を聞いてくれた彼も、手を繋いでくれた彼も。
全部偽物だった。
私が1人で思い描いた物語。
きっと、こうなってしまうと心のどこかでは分かっていた。
彼は優しいから。
私を選ばなくとも一緒に居てくれる。
それを勘違いして、私は本物を彼に押し付けた。
彼の本物はあの2人にしかないのに。
そっと頬を流れる涙を見せないよう、私は彼に背中を向けた。
流れる涙は1つ、2つと頬を伝い、止まることなく私の感情を吐き出していく。
あぁ、あんなに楽しかったのになぁ。
今日は、本当に素敵な1日だったのに…。
…どうして、私じゃ駄目だったんだろう。
「…っ、…」
そんな私を見下ろすように、素敵な幻想を抱かせた観覧車はくるくると回り続ける。
1番高いあの場所で、彼が私を選んでくれると願っていたのに、蓋を開ければ観覧車に乗ることすら拒絶されてしまう。
なんて愚かで思い上がりの強い女なんだろう…。
本当に、私はバカだ…。
「…ごめんね。そうだよね…、うん、…っ、わ、分かってた事だから…」
見苦しい言い訳を吐露する。
今日が終わればまた、傍観するだけの詰まらない日常が始まるのだ。
詰まらない自分、詰まらない毎日、詰まらない…、詰まらない…、彼の居ない明日。
「…海老名さん」
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