ハーメルン
実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-
第3話 四人だけの野球部

「早川あおい?」
「ああ。栗原……お前はその名前に聞き覚えとかあったりするか?」
「うーん……どうだろう。聞いた様な気もするし聞いたことが無いような気がするんだけど……ゴメンね、小波くん。やっぱり私は覚えてないかもしれない」
 栗原が申し訳なさそうにそう言う。
 昨日、早川あおいが仮ではあるが野球部に入りたいと言い出してから、妙に気に掛かった事があったのだ。
 早川あおい、と言う名前とあのアンダースローのフォームは昔どこかで見覚えがあると言う事だった。
 その記憶はきっとリトルリーグ時代であり、相当昔の事だから既にあやふやになっている。
 俺より遥かに記憶力の良い栗原に尋ねてみたのだが——。
 どうやら栗原も『アンダースローのピッチャーが居た』と言うのは覚えていたが、その名前については覚えはないようだった。
「でも、良かったよね!」
「何がだ?」
「だって、その早川あおいって女の子が野球部に入りたいって言ってきたんでしょ?」
「まぁ、これで部員は四人にはなったな」
「あれれ? なんだか幸先が良い感じゃない?」
 と、栗原は感心しながら、先ほどレジにて購入した新鮮なトマトとレタスに店特有のオリジナルソースと、肉汁が今にもじゅわりと出てきそうな厚切りのハンバーグを挟んだ「パワフルバーガー」と呼ばれるハンバーガーを小さな口で一噛みした栗原は、このボリュームで七百四十円は安くて美味しいと、喜びながらも口にソースを付けてニコリと笑う。
「さぁ、どうだろうな。幸先が良くても九人も居ないんじゃ話にならないだろ。それにしても晩飯がハンバーガーだなんてお前……アメリカ人にでもなるつもりか?」
「小波くん、それは偏見だよ? 向こうの人だってキチンと主食に副食も食べてるんだからねッ!」
「そんな事は知ってるよ。……ほれ、口元にソースついんぞ。高校生にもなって口元にソースを付けて平然としてるのは、流石にどうかと思うぞ」
「あ、ありがとう」
 俺はソースが口元についたのが気になり、ハンドペーパーを二枚ほど抜き取るとすぐ様栗原に渡した。
「ところでさ、栗原に聞きたい事があるんだけど」
「うん? なに?」
「いや、パワフル高校の野球部は実際どんな感じなんだ? 中学時代に強豪のチームで活躍してたスーパールーキー的な一年とか入ってきたりしてるのか?」
「どんな感じって言われても……。あっ、でも一年上の尾崎先輩が言うのには『猪狩ブルースシニア』出身の麻生くんとパワフル中学の戸井くんがもう戦力として数えられてるわね。もう夏の大会にはレギュラーとして試合に出られるんじゃないかって言ってたわよ」
「へぇ……、麻生に戸井ね。パワフル中学の戸井は兎も角、麻生ってヤツの名前は聞いたことがないな。それに『猪狩ブルースシニア』に居たって言うのなら去年と一昨年と二年連続全国に出場したチームじゃねえか。シニアに居たって事はあの『猪狩ブルースリトル』にも所属してたのか?」
 と、尋ねるが栗原は首を横に振った。
「ううん、彼は「育成会」上がりなの。地域でやってる軟式野球チームに所属していて、ブロードバンドジュニアスクール中学では、訳があったのか野球部には入らず、猪狩ブルースシニアのチームに入って今年パワフル高に入学したらしいのよ」
「成る程、育成会上がりか……。そいつは意外と努力人なのかもしれないな」
 栗原は、カバンから取り出した分厚いメモ帳に記されたデータを読み上げる。マネージャー業もちゃんと立派にこなしてるんだと、俺は感心もして安心もした。

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